旅の終わり−3
するとそこへ、背後に突然別の気配が現れた。
「そういうことよ、唯斗!」
「っ、ブーディカ…」
「余もいるぞ!」
「ネロまで、」
明るい声とともに、背中からのしかかるように頭を撫でてきたブーディカに髪をぐしゃぐしゃにされる。豊満なバストが背中に乗っているのがはっきりと分かった。
赤いバラのような服を翻すネロも共にいるようだ。
「あれ、エミヤもう退去しちゃった?も〜、薄情なんだから」
ブーディカに乱された髪をマリーに直されながら、食堂を見渡してぶすっとするブーディカを見上げる。
「え、あいつ挨拶しなかったのか?」
「うん?いやぁ、世話になった、とは言われたわ。サムライってやつ?」
「なんと、あの赤き弓兵はサムライだったのか!」
「違いますよ、お二人とも…」
トンチンカンな方で同意する二人に、ジャンヌは苦笑した。
どうやらこの二人も唯斗のところに挨拶をしに来てくれたらしい。それにしても、この二人が一緒になって行動するとは。当時も思ったが、なんとも不思議なものだ。
「…第二特異点でネロとブーディカに出会ったとき、サーヴァントってこんな数奇な出会いと別れをするんだなって、改めて思ったんだよな」
「あー、確かにね。特にあの特異点のネロ帝は生前の立場だったし」
「余はそれを覚えてはいないが、ブーディカの言葉は想像がつく。なんであれ今は、人理を担う若人たちを助け、強大な敵を打ち倒すべき、と叱咤したのだろう」
ネロは意外にもこういうところは非常に鋭い。まさにその通りで、ブーディカはネロに対して、そういう割り切り方をしていた。
それはブーディカの英霊としての強さだ。アーサーたちよりもさらに古い、イングランド最古の英霊にしてブリテンの化身として後世にその理想像をつくられる女性。思えば、イングランドがサリカ法を捨て女王を戴くのが早かったのも頷ける。
「マリーとジャンヌ、ネロとブーディカ…サンソンやアーサーも。こんな英霊たちが一緒になって世界を救うために戦うって、こうして振り返ると、本当にすごいことだ」
「そうですね。本来は聖杯戦争で殺し合う身。こうして人理救済のために背中を預け合えるというのは、サーヴァントとしても、とても不思議に感じます」
ルーラーであり、かつて聖杯戦争も経験しているジャンヌはなおさらそう思っているようだ。
このカルデアという場所は、グランドオーダーという戦いは、それだけ類い希なものだった。
「…それでも、ネロは変わらず皇帝として俺たちを鼓舞してくれた。ブーディカは母のように支えてくれた。サーヴァントだけど、生前の在り方で以て一緒にいてくれたことは、俺たちマスターだけじゃなく、カルデアにいた人間全員にとって大切なことだったよ」
サーヴァントとしての数奇な出会いをしながらも、一方で生前の有り様を示して人間たちを支えてくれた。そんな英霊たちに、誰もが救われた。
「…ありがとう、カルデアに来てくれて。あなたたちが、あなたたちで在ってくれて。何よりも、こうして出会うことができて、本当に嬉しかった」
改めて、唯斗はすべての感謝を言葉にした。戦闘だけでなく、カルデアでのこれまでのすべての彼らの貢献に、そして出会えたことそのものに、感謝の意を伝えることができた。
全員、それを聞いて微笑む。
「私も、あなたに出会えて良かったです、唯斗さん。あなたの旅路に神の加護があらんことを」
「
フランス万歳、あなたとフランスに幸いあれ!」
「君たちが取り戻した世界で、幸せな人生を送るよう祈っている」
ジャンヌ、マリー、ジークフリートはそう言って踵を返す。そろそろ立香たちに挨拶をして退去するのだろう。合わせて、ブーディカとネロも動き出す。
「異世界の後輩君のこと、よろしくね!」
「達者でな、唯斗!いつでもローマは、お前の幸多き旅路にも続いているぞ!」
フランス、ローマでの旅は、唯斗のそれまでの人生で培われたものの少なさに対して何倍もの経験を与えてくれた。それは、彼ら英霊たちがいたからに他ならない。
なんだか無性に、フランスの風が恋しくなった気がした。