悪性隔絶魔境新宿I−4
礼装の支度も終えて再度管制室に戻ってきたところで、ちょうどレイシフトの準備も整った。スタッフたちも慣れたものだ。
「コフィンの整備、完了しました!」
「よし、じゃあ手短にブリーフィングをしようか」
マシュは所長席に座り、マニュアルを見ながら存在証明の手順を確認している。ギルガメッシュに準備しておけと言われていたのを忠実に守っていたようだ。
今思えば、なぜかギルガメッシュがマシュに管制室周りのことを勉強するよう指示していたのは、この事態を見越していたからだったのかもしれない。現に、ギルガメッシュもマーリンも、先ほど驚いた様子はなかった。
立香の隣には、今回はキャスターのクー・フーリンが立っている。同行するサーヴァントはキャスターにしたらしい。確かに、立香に最も必要なのは盾役だ。防御も攻撃もできるキャスターは相応しい人選である。礼装の支度と一緒にサーヴァントも選んでから来た立香はさすがに手慣れている。
ダ・ヴィンチは所長席のデスクに体重を凭れさせながら、ホログラムに表示された特異点の情報を二人に見せる。
「場所は1999年、東京都新宿区。極めて狭い範囲が特異点になっている」
「え、新宿…?」
まさかの地名に、唯斗と立香は同時に驚いてしまった。
アーサーが隣で息を飲んでいるが、唯斗は年号と場所に思い当たることがなく首をかしげる。
「日本はもともと魔術耐性の極度に強い地域…その首都、しかも平成11年にあたる西暦1999年なんて、何も…」
たとえば、その4年前にあたる1995年であれば、日本を揺るがす多くの事件が起こった悪夢の年と言えるが、それであっても人理定礎を揺るがすことはあり得ない。
「そう、本来ならトップクラスの安全地帯だけど、そこでは何かが起きているはずだ。言うまでもないが、慎重を期して行くように」
「はい、行ってきます!行こう、唯斗」
「あぁ、カルデアは任せたからな、ダ・ヴィンチ」
「はいは〜い」
手をひらひらと振るダ・ヴィンチ、一礼するマシュに見送られて、唯斗と立香、アーサー、キャスターでカルデアスの前にあるコフィンまで階段を降りていく。
後ろを歩くキャスターは青く輝くカルデアスを見ながら腕を頭の後ろに組んだ。
「にしても、1999年の東京ねぇ。冬木なら行ったことはあるんだが…騎士王さんは異世界で聖杯戦争参加してたよな?」
「あぁ…あちらの聖杯戦争は、東京が舞台だった。二度目は1999年、縁があるのは確かだが…あれはあくまで別の世界のこと。この世界ではあり得ない特異点なんだろう、マスター」
「そうだな、正史において特異点となり得る事象は起きてない。というか、現代は一つの事象で人理を揺るがすことにはならない、それだけ複雑で高度化されてる社会になってるからだ」
「行くまでは分からないってヤツだね、いつもの」
「ま、そうだな」
立香があっけらかんと言うとおり、行くまでは分からない、なんていうことは今までと同じだ。
なんなら、行ったら予想と違ったということも多くあった。
「行ったら海賊船だったってこともあったしね」
「ロンドンに着くなり毒ガスで俺が死にかけたり、着いたら砂漠だったり…」
「気づいたら空から落ちてたこともあったなぁ」
これまでを振り返る唯斗と立香に、アーサーとキャスターは苦笑する。なんでもないように話すには、あまりに突拍子もない出来事だ。
コフィンに入り、4人のレイシフトの準備が整う。なんにせよ、いつもと同じく、着いたらすぐに警戒態勢になりながら魔術回路を開き周囲を索敵する。
『アンサモンプログラムスタート、レイシフト開始まであと、3、2、1…全工程、完了。アナライズ・ロスト・オーダー、
人理補正作業検証を開始します』