旅の終わり−11


ベッドに座ってアウラードをかまってやりながら待っていると、予定していた時間通りに扉がノックされた。


「入っていいぞ」

「失礼いたします」


入ってきたのはガウェインで、一礼して入室すると、ベッドでアウラードを撫でる唯斗を見て微笑む。


「おや、1匹だけ残していかれたのですね、太陽王は」

「そう、寂しくないようにって」

「それは良かった。騎士王とスフィンクスがいれば、査問までの1週間も気が紛れましょう」


そう言うと、ガウェインは唯斗の前までやってくるなり、床に膝をついた。跪いたガウェインと唯斗の視線は、やっと唯斗の方が少し高いくらいだ。


「他の英霊ほど私はあなたと戦うことができなかった。しかし、私はあなたにとって特別な存在となれました。あなたの誠実さと優しさ、愛情深さ、それらがもたらす、あなたならではの強さと決意。そんなあなたの剣となれた僥倖だけでなく、あなたに弱さを見せて頼っていただけたことの喜び、言葉にしようもありません」

「…ありがとう。ほんと、ガウェインとはそんな長くないのに、一緒にいた時間が多くてそんな気しないな」


ガウェインがやってきたタイミングは第六特異点のあと、グランドオーダーも終盤だった。しかしその後の特異点でも、あるいはレムナントオーダーにおいても、ガウェインが出撃する頻度は非常に高く、一緒に過ごした時間は一際長かった。


「…それに、ほんと、ガウェインが言うとおり、俺めっちゃガウェインには弱いとこ見せてきたし……」


何より、第六特異点後、唯斗がひどく精神的に参っていたときに助けてくれたのがガウェインだった。

初めて存在を必要とされたグランドオーダーの旅だったが、第四特異点において、唯斗は自分がいなくても本来は十分なのだと理解した。もともと立香の身代わりとして体を張るからこそ予備員という立場に甘んじていた唯斗は、一方で成長する中で人理修復により能動的になっていた。
しかし第六特異点のガウェイン戦において、唯斗は自ら死を覚悟した際に、成長したからこそ死の恐怖を感じてしまい、自分が不要とされることへの恐怖がその後もずっとついて回った。
それはガウェインを召喚したことで顕在化し、他にもいろいろなことが重なってしまった結果、唯斗はひどく心を消耗してしまったのだ。

ガウェインも当時を思い出したのか、唯斗の右手を取って握りしめながら優しい笑みを浮かべる。


「あのとき私は、あなたがどれほど心優しく、愛の深い方であるかを知りました。そんなあなたが私を頼ってくれることが、本当に嬉しかった。他のサーヴァントたちは、あなたの意志と覚悟の強さを称えることでしょう。もちろん私もそうです。しかし私はそれ以上に、あなたのそういった誠実さや優しさ、愛情深さの方も素敵だと思っています」

「優しさと愛情深さ…?」

「ええ。強さや意志は、カルデアに来てから成長させたもの。そして誠実さや愛は、元から、特に母君からもたらされたものであり、カルデアで発露したものです」


ガウェインは唯斗のより本質に近い深いところまで知っている。だからこそ、より生まれながらのものとして、唯斗の誠実さや愛が深いものだと指摘しているのだ。

そんなことを言ってもらえると思わず、唯斗は、これまで重なってきたサーヴァントたちとの別れによる感情の揺れがぶり返すのを感じる。


「…ガウェイン、」

「はい」

「隣、来て欲しい」

「…、失礼いたします」


ガウェインは唯斗の求めに応じて、ベッドの縁、唯斗の左側に腰掛けた。そしてアウラードを膝の上に乗せたまま、唯斗は左側に凭れた。
ガウェインはそれをそっと受け止めると、そのまま唯斗を抱き締める。


「…ガウェイン、俺、めちゃくちゃ寂しい。つらい。この日が来るってずっと分かってたのに、いざこうやって別れると、心に穴が空いたみたいだ」


ぽつぽつと、唯斗は初めてその言葉を口にした。今日一日、ずっと抑えていたものだ。ガウェインはそれをも受け止めると、唯斗の頭を撫でながらより深く抱き締めた。


「人に弱さを見せることは決して恥ずべきことではありません。弱さを見せるのにも勇気がいるのですから。きっと今のあなたなら、たとえ騎士王のいない世界を生きる日が来ても、あなたの誠実さに応える誰かが、あなたの勇気を受け止めてくれることでしょう」

「うん…うん、ありがとう、ガウェイン…!」


少しだけそうしてから、唯斗は自分から体を離した。ひどく名残惜しいが、ガウェインは他の円卓の騎士たちと共に退去することになっている。
彼らと語らう時間も残してやりたかったため、唯斗はアウラードをベッドに置いてから立ち上がった。
ガウェインも応じて立ち上がり、正面から互いに向かい合う。


「今までありがとう、円卓の騎士ガウェイン」

「こちらこそ、マスター・唯斗。あなたの未来に幸多からんことを」


他の騎士と合流するために扉を出て部屋を後にするガウェインを見送る。廊下に出たガウェインは一礼し、それを隠すように、自動的に扉がスライドして閉ざされた。

少しあっさりしているのかもしれないが、これで良かった。こうやって別れられるよう、ガウェインはずっと唯斗を支えてくれたのだ。唯斗が重すぎる心の感情に押しつぶされないように守ってくれていたあの騎士のおかげで、唯斗は今、しっかりと立つことができている。


305/314
prev next
back
表紙へ戻る