旅の終わり−13
唯斗は食堂を離れ、管制室に向かった。そろそろギルガメッシュも退去する時間だからだ。
中に入ると、ダ・ヴィンチにあれこれと書類を渡すギルガメッシュの姿が見えた。
「おや、お迎えが来たよ」
「ええい我は過労死などせぬとあれほど…と、貴様か」
お迎えの意味をはき違えて瞬間湯沸かし器のようになるギルガメッシュだったが、唯斗の気配に気づいてすぐに鎮まった。それにダ・ヴィンチは苦笑しながら書類を受け取る。
「委細承知したよ、ギルガメッシュ王。これで、査問にも落ち着いて対処できる。本当に助かった」
「礼には及ばん。が、ウルクでの借りは返したぞ」
ギルガメッシュはあっさりとそう返すと、こちらを振り返り近づいてきて、そして唯斗の腰を抱いてそのまま歩き出した。
「えっ、」
ひらひらと手を振るダ・ヴィンチに見送られ、管制室を後にすると、人気のない廊下を歩き出した。
腰に添えられた逞しい腕の温もりを背中に感じていると、ギルガメッシュの鋭い紅の眼光がこちらを見下ろす。
「他の者たちとの別れは済んだのか」
「大体。俺のサーヴァントはあと、あなたとマーリン、長可だけだ。立香のサーヴァントも、あとは日本史勢だけになってる」
「道理で静かなわけよな。死者の喧噪とは思えん騒がしさであった」
昨晩の騒ぎだけでなく、これまでのカルデアの賑わいそのものを言っているのだろう。
また少し沈黙が落ちてから、ギルガメッシュは再び口を開く。
「貴様はよく戦い、よく成長した。それはまさに、一人の人間が成立する過程そのものだった。ならばこそ、我が手を貸すに相応しい」
「…そっか、カルデアのギルガメッシュは長いこと一緒にいてくれたな。ウルクのあんたも同じ存在に等しいとはいえ、イシュタルたちが第七特異点の俺しか知らなかったから、なんか不思議な感じだ」
思えば、ギルガメッシュは長い間一緒にいてくれた。カルデアに来たのは第三特異点のあとだ。
一方、ウルクで再会したときは、第七特異点にいた他のサーヴァントたちにとって唯斗は成長したあとの姿だったわけである。
それを聞いたギルガメッシュはフンと鼻を鳴らした。
「そうさな。第四特異点で発明家相手に単身挑んで大けがを負ったことも、第六特異点で死のドライブにこの我を巻き込んだことも知らぬだろうなぁ」
「死のドライブはちょっと思い当たる節がないな…?」
「たわけ」
こつんとデコピンを喰らうがまったく痛くはない。恐らく思い出し笑いをしていたら、金のグローブでデコピンされて悶絶していたことだろう。
「…でも俺、さっきイシュタルたちと話してて思ったけど、第七特異点での戦いでもそれまでとは違うようなこと、いろいろ考えた。メソポタミアはもう滅びた文明で、アステカは滅ぼされた文明だ。そうしたものと向き合ったのは初めてだった」
「だがお前は、滅びる運命にあると知りながら戦う者たちに、人間として共に肩を並べたいと申しただろう。そして、アステカのような人類史の負の側面を次の時代に継承することも重要だと、アガルタで述べていた」
そこでギルガメッシュは立ち止まる。何かと思っていると、おもむろに腰を引っ張られ、ギルガメッシュの晒された上体に体を押しつけられるようにして抱き込まれた。
「っ、?」
「…して、いつまでコソコソしているつもりだ」
「おや、続けてくれて良かったのに」
その声はマーリンのものだ。まったく気配もパスも気づけなかった。まるでアサシンのように姿を隠していたマーリンが現れたのだろう、ふわりと花の香りが漂った。