旅の終わり−15
残るサーヴァントは長可だけとなった。立香のサーヴァントも、日本のサーヴァントだけが残っているため、唯斗は彼らがいるであろう食堂に向かう。
中に入ると案の定、複数のサーヴァントたちが立香とマシュと話していた。
「あら、もうひとりのマスターはんやないの」
食堂に入った唯斗に真っ先に気づいたのは、立香の腕に絡みつく酒呑童子だった。京言葉ではんなりとしているが、攻撃は極めてえげつない。
その隣には茨木童子がおり、他に鈴鹿御前と清少納言もいた。
「あ、唯斗。もうみんな還った?」
「あと長可だけ。茶室組はまだ来てないのか?」
「そろそろ来ると思うんだけど…」
立香のところまで来た唯斗に、突然、清少納言がくっつくように隣に立った。
「はい唯斗っちピース!」
「えっ」
「早くピースするし」
反対側に鈴鹿御前もくっつき、内側のカメラが起動しているスマホで自撮りをさせられた。
言われるがままに半端なピースサインをつくったが、清少納言はそれで満足したらしい。
「そういや、紫式部はもう退去したのか?」
「んー?薫っちは昨日のうちに図書館ごと退去したよ。唯斗っちによろしくって」
「そうか、残念だな…」
「え〜?ひょっとして唯斗っちってば、薫っちのが好みだったり?」
「作風はな。俺は式部派だから」
「うわなんかむかつく」
清少納言か紫式部かで言えば紫式部の方が好きな唯斗である。
清少納言は笑いながら唯斗をどつき、「あたしも薫っちの和歌好き」と言っていた。どつかれ損である。
「おや、これはまた。鬼ばかりですね」
すると今度は、涼やかなそんな声が食堂に加わった。室内に入ってきたのは天草だ。
先日も、立香が下総から帰還したあと、その残滓を処理するべく天草と立香はレイシフトを行い、そこでの天草語録が立香によって赤裸々にされていたところだ。
「99.9%鬼だな」
「唯斗さん?」
それをもじって言ってやれば、天草はにっこりとしながら、唯斗をテーブルと挟むように腕に閉じ込めた。
唯斗の背後のテーブルに両手をつき、腕と体とテーブルによって唯斗は囲まれ、目の前に端正な顔立ちが迫る。
「ヒュウ!やっちゃえ天ちゃん!」
「だから朝ドラみたいな呼び方やめてくださいなぎこさん」
「違うよ唯斗、さすがに99.9%は盛りすぎだよ。4分の3だから75%鬼だよ」
「そういうことではないですマスター」
「あんたが来たから5分の3で60%鬼だし」
「そこではないです鈴鹿さん」
天草は怒濤のツッコミでため息をつく。なぜかいまだに唯斗は閉じ込められているままだ。
そんな様子を見ていた酒呑童子はにこやかにする。
「随分仲良うならはったんやねぇ。まるで旦那はんの時代の、なんやったっけ、学生?とかいう子ぉらみたいやないの」
そういえば、立香とマシュ、唯斗、天草、清少納言、鈴鹿御前は、サバフェスの折りに修学旅行のようなことをしたことがあった。とはいえ、実際にルルハワを巡ったループはなかったことになっているため、マスターたちにしか記憶はない。それでも同じような空気になれるのは、もともとそうなれるメンバーであったということなのだろう。
さらにそこに別の声が響いた。
「おいてめぇ!俺の殿様に何してやがる!!」
「あ、長可」
ようやく長可たちがやってきたようで、入るなり天草に迫られる唯斗を見て、ずかずかと歩み寄ってきた。
すぐに天草は唯斗の前を離れる。長可は庇うように唯斗を抱き締めると、天草に唸るように牽制した。
「去り際に汚い真似するとは侘びてねぇじゃねぇの」
「先に仕掛けてきたのは唯斗さんですので」
「天草がいきなり…」
「やっぱりじゃねぇかてめぇぶっ殺す!!!」
長可の胸元で悲壮な感じっぽく言えば、バーサーカーなだけあり、天草の主張などまったく聞き入れられなかった。
天草のじとりとした目線を背中に感じるが、唯斗は長可の胸板から顔を上げて、その精悍な顔を見上げる。