旅の終わり−16
「それよりも長可、そろそろ長可たちも退去するんだよな」
「あぁ。ったく、来たばっかりだってのによ」
唯斗が切り出しただけで、けろりと天草のことなど忘れてこちらにすべての意識を向ける。その様子を見ていたのだろう、体がでかくて見えていなかったが、長可の後ろから豪快な笑い声が聞こえてくる。
「ぶわっはっはっは!まったく、勝蔵をこうも手懐けるとは、なかなかやるのう!」
「犬猫のように扱いすぎですよノッブ、あれでも後世に伝わる有名な武将なのですから」
信長や沖田など、茶室のメンバーも来ているらしい。これで残るすべてのサーヴァントが揃ったことになるのだろう。
平安時代から明治時代まで、実に様々な日本の英霊たちが揃っている。まともな英霊がほとんどいないが。数少ないまともな英霊である紫式部や俵藤太はすでに退去してしまっている。
「…改めて、ありがとな長可。短い間だったけど、結構いろんな特異点で戦ってもらったし」
「もうちょい戦いたかったが、まァ、あんたの下で戦えたことだけでも僥倖だな。この俺に、味方からも死を望まれた俺に、死んでも守るんじゃなく守るために生きろ、なんて誓わせたんだ。存外、悪いモンじゃなかった」
そう言いつつ、この男にしてはおとなしく優しい声で、頭を撫でられる。ふとしたときに、こういう大人の男っぽい行動をするのだ。もちろん、見た目は若くとも大名をやった人物だ、当然なのだが。
そこに、割り込むように天草が声をかけてきた。
「俺もあなたに会えて良かったですよ。こんな特殊な英霊に対しても、誠実に接してくれた。日本の英霊として会えて良かった、なんて言ってくれた」
「あ!?殿様に話しかけてンじゃねェぞ!!」
天草から隠すように抱き締められ窒息するかと思ったが、唯斗は最後に言うことは言わねば、と体を離す。
長可も気づいて腕の拘束を外した。
立香もこれで去り際とすることにしたらしく、会話を名残惜しそうにしながらも切り上げる。
そして、唯斗と立香で並んで、サーヴァントたちを見渡した。
「なんだかんだ、やっぱり故郷の英霊と出会えて良かった。一緒に戦えて嬉しかった。あなたたちのおかげで、俺は故郷のことがもう少し、好きになれた」
「俺も、唯斗みたいに詳しくないから、よく知ってる日本史のサーヴァントと出会えて安心した。みんなもそれを分かって俺に接してくれてるのが分かって嬉しかったよ。今まで、本当にありがとう」
やはりと言うべきか、マスターたちの言葉には、信長が一歩前に出て鷹揚に頷いた。日本史のサーヴァントたちを代表するなら、この人しかいない。
「うむ!これまでの長旅、大義であった!わし、あんま難しい人理修復とかよう分からんかったけど、まぁなんだ、楽しかったぞ!」
信長はそう言ってニッと笑う。そして、全員、それを合図に光の粒子に包まれ始めた。呆れる沖田と苦笑する坂本龍馬の姿も見える。すでに興味をなくしたような茨木童子をたしなめる酒呑童子、いつもよりも大人びた顔の清少納言と神に近しい類いの笑みの鈴鹿御前、読めない表情ではなく純粋に笑う天草に、唯斗を見つめて目を細める長可。
「ではさらばだカルデア!お主らと日の本に幸あることを祈って別れの挨拶としよう!」
その言葉を最後に、全員が一斉に退去して、消失していった。眩い光が食堂を一瞬照らしたが、すぐ後には、誰もいなかったかのように空席が広がっている。
ここに、ダ・ヴィンチ、ホームズ、アーサーを除くすべてのカルデアのサーヴァントが退去した。
静まりかえったカルデアは、2年前の沈黙を取り戻そうとしている。