旅の終わり−17
最後に一際賑やかだった者たちを見送ったからか、がらんとした食堂があまりに空虚に感じられる。
静まりかえった室内で、最初に声を出したのは立香だった。
「…よし!じゃあ、早速だけど。この部屋、片付けようか」
「…そうですね。この飾り付けを残していたら、魔術協会の方々に浮かれた組織だと思われてしまいます」
「どこに片付ける?」
立香はこの食堂を飾るクリスマスパーティーの装飾を片付けることを提案し、マシュと唯斗もそれに応じた。とりあえず何かをしよう、という、どこか逸るような気持ちになったのは共通していることだろう。
「とりあえず、俺の隣の部屋がグランドオーダーの前から空き部屋らしいから、そこに全部いったん片付けちゃおう」
「分かった。じゃあ、二人はどんどん壁の飾りを外していってくれ。俺が転移させる」
「めっちゃ便利じゃん…」
壁にくっついている状態で転移すると壁を傷つけてしまうため、まずは手作業で外すところからだ。
そうして3人で壁に向かって、それぞれ少しずつ離れた位置で装飾を外していく。適宜唯斗がそれらを転移させていく作業が続いた。
サーヴァントがいなくなり、その暮らした痕跡もなくなり、こうやってみんなで騒いだ残り香もなくしていくと、どんどんカルデアの時間が爆発事件前に戻っていくようだった。
サーヴァントたちと別れる中で過去を思い返していたものだから、唯斗はふと、二人にこれを機に聞いてみることにした。
「……あのさ」
「ん?」
「どうかされましたか?」
立香もマシュも作業をしながらすぐに聞き返してくれる。そういうところはそっくりだ。
「…最初の頃、俺がまだ、何事に対しても無気力なヤツだったときさ。そんなヤツと一緒に過酷な旅をさせられるの、嫌じゃなかったのか」
唯斗の質問は予想外だったのだろう、二人とも手を止めて、驚いたようにこちらを見た。
唯斗よりも左側の壁に並んで作業をしていた二人は、唯斗をびっくりして見つめながら、思案する。最初に答えたのはマシュだった。
「嫌、というような感情はありませんでした。私も、人のことを言えないような、そんな人生でしたから。限られた接触、限られたコミュニケーション。守られ管理されていた分、唯斗さんよりは好意的なものが多かったのでしょう。けれど、普通の人間のそれでは、決してなかった。なので、嫌だと思うようなこともありませんでした」
「…俺、結構マシュにも冷たくて素っ気なかったと思うけど。爆発事故の前からずっと」
「今と比べたらそうかもしれません。けれど私も似たようなものでした。そうですね、唯斗さんを嫌だと思うことはありませんでしたが…怖くないのだろうか、とは何度か思いました。他者と衝突すること、戦うこと、死ぬこと。それらが怖くないのか不思議だったのです」
「マシュっぽいね」
立香はマシュの回答を聞いて、彼女らしさに優しく笑う。そして、手に持っていた飾りをテーブルに置きながら、立香も答えた。
「…俺は、最初、なんで俺だけこんな目に、って思ったのは、ぶっちゃけ確かだよ。せっかく二人のマスターが生き残ったのに、正規も予備もないじゃんって」
「立香……」
今更謝るようなことはしない。だが、立香の感じたことはまさにその通りだ。立香からすれば理不尽だったはずだし、それは第二特異点レイシフトの前、一人この食堂で涙を流していた姿として唯斗も知っている。
しかし立香は明るく唯斗を見つめる。
「でも、ローマにいるときには、もう優しい人だなって思ってたよ。なんだかんだ、俺のお願い聞いて人を殺さないようにしてくれたし、聞いたことにはきちんと全部答えてくれたし、教えてくれる内容も、最初は難しかったけど、俺のレベルに合わせようとしてくれた」
「先輩…そうですね。私は、冬木のときからずっと、唯斗さんのふとしたときに見せる優しさと、いつものぶっきらぼうな態度のうち、だんだん優しさを感じる場面が増えていったことに気づいていました。先輩と同じく、ローマやオケアノスではすでにそう思っていましたよ」
「そうそう、オケアノスとか特にそうだったよね。一番大きく喧嘩したけど、俺にとってはそういうことができる相手って、逆に唯斗しかいなかったから。あのときにはもう、唯斗がいてくれて良かったって強く思ってた」
「そ、そうか」
二人が楽しそうに唯斗のことを話すため、気恥ずかしくなってしまい、自分が振った話題なのに少し後悔する。それを目敏く気づいた立香は、楽しげに笑いつつ、話題を少し変えてくれた。
「逆に唯斗は?もっと使えるヤツが生き残れば、みたいなのなかったの?」
「確かに…Aチームで生き残るのも、私ではなくカドックさんやキリシュタリアさんの方が良かったのでは、と思われて当然です。先輩に守られてばかりで、先輩を主に、特に最初の頃に守ってくださっていたのは唯斗さんでした」
立香とマシュはそんなことを聞いてきた。それこそ聞くまでもない、と思うが、こういうことを唯斗が言ったこともなかったかもしれない。
「最初の頃は、そもそもそんなん考えるほど真面目じゃなかったしな。でも、第四特異点あたりから、立香とマシュだから、グランドオーダーができてるんだって思うようになった。本当に必要な力は魔術とかじゃない、人間としての力だって」
唯斗は改めて二人に正面から向き合う。立香とマシュも、こちらをしっかりと見据えてくれていた。
「立香とマシュだからグランドオーダーは達成されたんだ。俺も、二人が二人だから頑張れた。そんで何より、俺たちだったから、今があるんだろ」
「はい…はい!その通りです!」
ぱっと顔を輝かせて、マシュは大きく頷いた。立香はその様子を見て微笑みながら、マシュと唯斗に向き直る。
「改めて、今までありがとね、マシュ、唯斗」
「はい、こちらこそありがとうございました、先輩、唯斗さん!」
「あぁ。二人と旅ができて良かった。ありがとう」
3人で礼を言い合って、一瞬沈黙が落ちる。そして、どこか気恥ずかしいような感じがして、3人揃って顔を見合わせると、同じタイミングで笑いが零れた。