悪性隔絶魔境新宿II−14
ジャンヌがそう言った、その瞬間、巨体ながら目にも留まらぬ速さでロボがこちらに迫った。
咄嗟にアーサーが前に出て、唯斗と立香を庇うように聖剣で受け止めたが、あのアーサーですら、衝撃に吹き飛ばされた。
「っ、アーサー!」
アーサーは衝撃をいなすために上空でバク転のようにして回ってから着地したが、腕が震えているのが遠目でも分かった。
「大丈夫か!?」
「大丈夫、すごい衝撃だ」
慌てて唯斗が駆け寄り、受け止めた際にダメージを負ったらしい腕に治癒術式をかけてやる。
背後では、追撃を避けるためにアルトリアとジャンヌが猛反撃を開始しており、モリアーティもミサイルやら銃弾やらによる遠距離攻撃を始めている。
すぐに回復したアーサーとともに前に戻ろうとすると、再びロボが跳躍する。モリアーティのミサイルを受けて出血しているが、それをものともせず立香と唯斗のところをまっすぐに目指している。
唯斗は瞬時に近くの街灯に迷彩魔術をかけて見えなくすると、立香を引っ張ってその街灯の後ろに移動する。
「立香!」
「うわっ!」
強引に引っ張られた立香はよろめいたが、直後、ロボは見えない街灯に激突した。
それによって術式が解かれて街灯は再び姿を現し、ショートする火花を散らしながら、金属のひしゃげる甲高い音とともに傾く。
その隙にアルトリアとアーサーが切りつけ、ジャンヌの槍が刺さっていくが、それでもロボはこちらを睨み続けていた。
想像を絶するほどの憎悪だ。
モリアーティは、棺桶から放たれたミサイルがまったく効いていないことや、アルトリアとアーサーの聖剣を以てしても攻撃がほぼ通らないことに、表情を険しくした。
「駄目だ、この場で倒し切る手段が存在しない!ホームズ君、そっちはどうだ!?」
「そうだね、君も私も、結論は同じだろう。誰か1人が犠牲となって、この場を凌ぐ」
「そんな、」
ホームズの言葉に立香は息を飲む。
本来、幻霊はここまで強い存在ではない。しかしこの魔境新宿の力と、様々な幻霊を複合したその霊基、そして何より凶悪な人類への憎悪が、アヴェンジャーを極めて強い存在にしていた。
マスターから離れて全力を出せないサーヴァントたちと、マスターを執拗に狙う俊敏なロボという組み合わせでは、誰もが全力を出しづらいということもあった。
「じゃあそれ、私がやるわ」
そこに、自ら申し出たのはなんとジャンヌだった。
全員の目が驚いてジャンヌに向かう。ちょうど、アーサーが振りかぶるようにエクスカリバーでロボを薙ぎ払い、吹き飛ばしてビルの壁面に激突させたところだった。
ビルの壁面が崩壊し、ガラスが割れて照明が消えていく。その轟音が響く中、ジャンヌは平然とそちらに体を向けた。
「ここに釘付けにすればいいんでしょ?私がやるわ。あんたたちはさっさと散りなさい。といっても、それで稼げる時間は僅かよ。その間にとっとと対策立てて罠でも仕掛けなさい」
「でも、ジャンヌ、」
「何、あなた味方も犠牲にできないの?情けない指揮官ね」
立香は食い下がるが、ジャンヌはすげなくそう返す。ホームズはちらりと呻くような声が聞こえるビルを見遣ってから、ジャンヌに問いかけた。
「同じアヴェンジャーとしての共感か何かかね?」
「違うわ。…突っ走るからには、ゴールがないといけないでしょう。だったら、ゴールを作ってやらないと。共感じゃなくて、終わりを与えてやりたいのよ」
それは、同じ憎悪を持つ者としての、一種の手向けであり敬意だった。
アヴェンジャークラスたるジャンヌの在り方そのものでもある。
いよいよ瓦礫が崩れ、ロボが再び動きだそうとし始める。
アルトリアは最後に、その背中に声をかけた。
「ジャンヌ・ダルク・オルタ」
「…なに」
「この場は任せた」
「ええ、任されたわ」
それだけですべてを済ませると、アルトリアは「行くぞマスター」と言って走り出す。
「…気をつけて、ジャンヌ」
「ハッ、あんたもせいぜい藻掻きなさい」
ジャンヌは立香にそうニヤリとしてから、動き出したロボに向かった。
唯斗もアーサーとともに走り出し、一同は西新宿から撤退を始める。
やがてビル街から繁華街に入った直後、背後からとてつもない火炎が立ち上り、夜空を染め上げたのが見えた。ここまで伝わる憎悪の熱に、立香は拳を握りしめていた。