悪性隔絶魔境新宿II−16


こうしてロボとの戦いを終えた一同は、ねぐらへと戻ってきた。度重なる戦闘で、歌舞伎町も代々木も西新宿もあちこちから黒煙が立ち上っているような状況だ。
着実に、前へと進んでいた。

今後のことを話すべく、偵察のためいったん離席していたホームズたちが戻ってきたところで再び作戦会議となる。
先ほどはとにかくロボを倒すことだけを考えていたが、いよいよ王手だからだ。

ホームズは丸椅子に座りながら、顎に手を当てて話し始める。


「さて、我々は新宿のバーサーカー、アサシン、アヴェンジャーを討ち取ったわけだが…残る戦力は2人、新宿のアーチャー、そしてエミヤ・オルタだ」

「先ほどホームズ君と見てきたが、バレルの前にエミヤ・オルタが陣取っているのが見えた。総勢200人を超える雀蜂と一緒にネ。これがデジカメで撮影したものだ、カルデアで解像度を上げてくれるかな?」


モリアーティは偵察で撮影した画質の荒い写真を、立香の通信機からカルデアに送信する。それを即座にダ・ヴィンチが加工すると、立香の端末からホログラム化して空中に投影した。


『これでどうかな?彼らの武器は量産型、見えればなんとかなるだろう』

「ふむ、面白味はないが堅実な布陣だな」


全員で立香の周りに集まって、ホログラムの画像を確認する。
1メートル四方くらいの大きさに引き伸ばされているため見やすくなっていた。

アルトリアの分析には、やはりというかアーサーが頷いた。


「そうだね、確実に君がバイクで突撃してくることを想定した、対大型魔獣討伐陣形だ。正攻法では攻めきれず時間がかかるし、攪乱するには堅実過ぎる」

「あの男のことだ、隙を突く、というのは難しいだろう」


さすがに王だけあって、2人ともすぐにエミヤ・オルタの防御態勢がすぐに破れるものではないと理解した。
バレルの建物そのものは極めて大きいにも関わらず、突入するのにこれだけ難関があるとは、と思っていると、アルトリアはため息をついた。


「…突破すること自体、読まれているだろうな。せめて、誰も思いつかないような方法であれば…」

『あっ…』

「どうしたマシュ・キリエライト、今の『あっ』は明らかに何か思いついたニュアンスだったが」


すると、マシュが通信越しに何か思い至ったかのような声を出した。すかさずアルトリアが指摘するが、なぜかマシュは吃る。


『い、いえ!な、なーんでもありませーんヨー!』

「怪しすぎるんだけど!?」

「俺が言うのもあれだけど、下手すぎるだろ」

『なんでもないです本当に!特に先輩と唯斗さんはあまり気になさらないでください!』


さすがの下手さに、立香も唯斗も指摘する。アルトリアも「マッシュマシュにするぞ」という謎の脅しをかけた。



『う…あ……その、アーラシュさんをですね…思い出してしまいまして…』

「アーラシュ?東方の大英雄、アーラシュ・カマンガーか?」

『はい…すみません先輩、敵陣をユニークな方法で突破すると聞いて、つい…』

「あ……」


立香と唯斗の脳裏に浮かんだのは、第六特異点でのアーラシュだ。
東の村から西の村へと急行するため、アーラシュが行ったとんでもない荒技。

疑問符を浮かべるモリアーティとホームズをよそに、唯斗も立香も顔色が悪くなった。それを見てアルトリアがニヤリとする。


「ほう、マスターと雨宮が青ざめたか。それはそれは良い作戦を聞かせてもらえそうだな、マシュ?」



ところ代わって、新宿警察署裏交差点近くの証券会社のビル。
屋上でついに完成してしまった固定砲台を見て、いよいよ唯斗は正気を疑う。


「……マジでおかしいだろ………」

「いーやーだー!!」


駄々をこねる立香だが、すでに完成してしまった巨大な板と、それを射出する巨大な射出機械はすべての準備を終えている。

第六特異点では、唯斗はアキレウスがいるからとアーラシュに同乗しなかったわけだが、まさかここに来て実践することになるとは。


「い、いやぁ、俺は、アーサーに抱っこして運んでもらいてぇなぁ〜?」

「大丈夫、僕が君を必ず安全に空中移動させるよ。カルデアに戻ったらいくらでも抱っこして運んであげよう」

「んなこたァ言ってねぇんだわ!!」

『あっはは!珍しく唯斗君が乱れてるねぇ〜』


逃げ腰の唯斗に、アーサーががしりと肩を掴んで動けなくする。立香はアルトリアに捕まっていた。


「我らダブル騎士王から逃げられると思うなよ、マスター、雨宮」

「うう…でも今回は唯斗を巻き添えにできるからまだマシか……」

「恨むぞマシュ…!ちょっとだけな…!!」

「ちょっとしか恨んでないのがマスターの可愛いところだね。さぁ、ボーディング・タイムだ」


ずるずると二人の騎士王に引きずられ、立香と唯斗は金属の板につけられた取っ手を掴む。アーサーは唯斗を、アルトリアは立香をそれぞれ抱えるように固定した。

モリアーティがこの装置を稼働させ、あとから徒歩で合流する。ホームズは先に歌舞伎町へ向かっており、コロラトゥーラたちを誘導していた。コントロールを失ったコロラトゥーラは無差別に人を襲っており、これをバレルまで引き連れることで攪乱するのだ。


「アテンション・プリーズ!良い旅を!」


朗らかにモリアーティがそう言った瞬間、突然、唯斗は掴まっていた板に押しつけられた。急激に重力から離脱するとてつもない加速によるものだ。
途端に猛烈な風を切る音が耳に響き、Gによって体が動かなくなる。
アーサーに抱えられていなければ振り落とされていた。


「―――ッッ!!」


声を発すると、恐らく吹き付ける空気抵抗で気道を塞がれてしまうだろう。唯斗は口を閉じて、必死に取っ手を握り締め、アーサーの体になるべく包まれるよう身を縮める。

ギリギリ見える視界には、超高層ビル群の明かりが線になって見えるほど速く過ぎ去っていき、次第に重力が戻ってくる。減速とともに落下を始めたのだ。
グライダーのように金属板はバレルに突っ込んでいく。

地面に激突する寸前で、アルトリアが立香を担いで飛び出し、唯斗もアーサーに抱えられて板から離れて空中に飛び出て、そのまま着地した。
板は何人かの雀蜂を押しつぶす。

同時に、エミヤ・オルタの迎撃が始まり、モリアーティの煙幕、さらにはホームズが引き連れてきたコロラトゥーラも合流して、一瞬にしてバレル前の戦場は混沌に包まれた。


「マスター!走るよ!」

「っ、あぁ、」


唯斗はアーサーに支えられながら何とか立ち上がり、煙幕の中、交戦するアルトリアに任せて立香とバレルに走る。
油断すると生まれたての子鹿のように震えそうになる足を叱咤して走りながら、同じく隣を走る青ざめた顔の立香に口を開く。


「…立香、キャメロットでのこと、謝る」

「……ううん、いいんだ、生きてるし……」


とにもかくにも、これでバレルに突入できる。ここからいよいよ、本拠地でこの特異点を修復する最後の戦いに臨むのだ。


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