悪性隔絶魔境新宿II−17
バレルタワーに突入すると、まさに銃身の中と言えるような、巨大な螺旋階段が上部へと続いていた。吹き抜けになった中央部をくりぬく螺旋階段と、壁面に沿ってドーナツ状にフロアがあるような構造だ。
高さは400メートルを超えている超構造建築であるため、この階段を駆け上がりつつ、敵を倒していくというのはかなりハードである。
立香はフィジカルだけでできるだろうが、唯斗は強化をかけなければならない。
そうして駆け上がりつつ敵を倒していくこと30分、ようやく、上層階の本拠地に到着した。最上階ではないが、そこは他と赴きが異なり、四角錐を重ねた八面体のガラスケースに巨大な青い蝶が閉じ込められたような構造物が鎮座していた。
この蝶の意匠はモリアーティのものと同じであり、そして案の定、そこにはモリアーティがいた。
『こちらが悪のモリアーティ…さん、』
「さん付けは不要だよ、悪なのだし」
悪のモリアーティは、こちらの善のモリアーティとまったく姿は同じだが、纏う空気が異なる。張り詰めたような、そんな鋭い空気だ。
「私に善心などあったのかと驚きだが…しかしそんなものに興味はない。私にとっては、ただ蹴散らすだけの代物だ。藤丸立香、カルデアのマスター。君がホームズの助けを借りて再びここにやってくることは計算されたことであり、そして計算ができないのはここから、つまり私が勝つか君たちが勝つかということだが、それすらもどうでもいいことだ。私の役割はそれで終わる。そう、私はこの瞬間を3000年……いや、私は何を言っている?待ち焦がれてなどいない。気のせいだ」
悪のモリアーティは淡々と機械的に言ったが、しかし一方で、どこか話の前後が合っていないちぐはぐな印象を受けた。
ホームズは片眉を上げてその様子を観察している。やはり彼の知るところとも少し異なるらしい。
悪のモリアーティは咳払いをして話を続ける。
「さてカルデアのマスター。宇宙には、すでに小惑星が飛来している。魔弾の射手の力でね。私があの隕石を弾丸と定めた以上、あれは寸分違わず、この銃身に装填される。私は死にたくない、死にたくないが…ある一点を以て私は自身の死より惑星の殺害を優先する」
「…死にたくない?」
唯斗はモリアーティの言葉に訝しんだ。サーヴァントであるモリアーティが死を恐れることに違和感があった。感情で動く人間的な者ならまだしも、彼は理知的な人物だ。サーヴァントである身でいながら死を恐れる矛盾を起こすとは思えなかった。
ただの登場人物に過ぎない彼が「惑星の殺害」を優先することも解せない。
しかしアルトリアはこれ以上の会話を不要と判断したのか、禍々しい気を放つ剣を構えた。
「ここで貴様を倒せばすべて済む話だ」
「その通り。さあ、これがこの事件の真相だ!解いてみせるがいい、カルデアよ!」
そうして、ついにモリアーティとの決戦が始まった。
向こうはモリアーティ単騎であり、こちらは善のモリアーティの他、アルトリア、ホームズ、アーサーと、ホームズをたとえ除いても3騎のサーヴァントがいる。
唯斗は棺桶を出現させたこちらのモリアーティに声をかける。
「分かってるとは思うけど、あいつの攻撃のうち、俺と立香に照準が合ったものを優先して狙ってくれ」
「相殺するわけだネ、了解」
モリアーティの弾丸は必ず当たる。そのため、マスターを狙う悪のモリアーティの砲撃を相殺する役目を優先してもらう必要がある。
一方、アルトリアとアーサーのダブル騎士王はとにかく攻撃に集中する。
いつでもこちらは結界を展開する用意はできていたものの、モリアーティ同士の撃ち合いは完全に相殺されており、アルトリアとアーサーの聖剣が次々と悪のモリアーティを切り刻んでいく。
「…終わりか」
なんだか手応えがない、と後ろで唯斗は思っていたが、なんとそのまま、呆気なく倒せてしまった。
モリアーティはがくりと膝をつき、血を流しながら消失を開始する。
「……なんだ、これ………」
「唯斗?」
倒せてしまったことに、唯斗はざわざわとする胸の内を感じる。なぜか分からないが、嫌な感じだ。