悪性隔絶魔境新宿II−19
そんな声がした直後、突然、聞き慣れた棺桶からの射撃音とともに、銃弾がホームズを貫いた。
もとから弱っていた霊基のホームズは、腹を貫いた銃弾に血を噴き出し、目を見開きながら膝を着く。
「ッ!?」
息を飲む立香と唯斗、同じく驚いて固まるアーサーとアルトリア。誰もが驚愕し、誰もが想像もしてなかったことだった。
こちらのモリアーティが裏切ることなど、いつの間にか、まったく不自然に思えてしまうほどに、彼は立香たちと共にあったのだ。
「モリアーティ…君は…いや、そうか。まさか、そうか!逆だったのか…!!」
「今度こそ私の勝ちだ、ホームズ」
「……遺憾ながら君の勝利だ、モリアーティ。そして心から詫びよう、ミスター藤丸、雨宮。私の推理が、完全に間違っていた」
あまりに突然のことに理解が追いつかないまま、事態は急展開していく。
ホームズの霊基はかき消え、存在はしているものの、なんとモリアーティの霊基と合流して一つになってしまった。モリアーティはそれによって完全体となり、先ほどの悪のモリアーティのような姿になる。
そして、モリアーティはすべてを語った。
幻影魔人同盟、それは、人であるモリアーティと魔神柱であるバアルとの盟約だった。モリアーティはホームズを超えるため、バアルは立香と唯斗を殺すため、それぞれ協力して、この新宿を作り上げた。
空想が支配するフィクションの20世紀末、それが悪性隔絶魔境新宿だ。
3000年にわたる復讐計画によってバアルは幻霊を合体させる技術を身につけ、そしてモリアーティは、この新宿で自らの記憶を削った。
バアルも一緒になって記憶を削り、部分的にモリアーティと一つになった。
その結果、「悪性を切り落としたモリアーティ」が生まれた。てっきりカルデア側は、善なるモリアーティが切り離された方だと思っていたが、逆だったのだ。
悪性が切り離されて、それがバアルの皮となっていた。モリアーティはこうして、裏切りではなく、本当に心から、善なるモリアーティとして振る舞っていたのである。
しかし、先ほど悪のモリアーティを倒したことでバアルが元の姿を取り戻すと、人格を削っていたモリアーティにそれが戻って、完全体としてすべての記憶を継承した。その時点で善なるモリアーティは消失し、ホームズを取り込んだ。
これで、立香と唯斗の他には、アーサーとアルトリアしかいなくなってしまった。騎士王とはいえ、魔神柱と完全な英霊と化したモリアーティを相手取るにはかなり厳しい状況である。
いったいどうすれば、と思ったときだった。
「ようやく正体を現してくれたな、バアル!」
階下から姿を見せるなり、即座にバアルに銃弾をたたき込んだのは、エミヤ・オルタだった。
エミヤは銃を構えながら近くにやってくる。アルトリアはため息をついた。
「それが目的だったのか」
「傭兵のつらいところでね。仕事は仕事、俺が雇われたのは魔神柱を倒すためであってそれ以外のすべては些事だ。ならば、合理的な方がいいだろう?」
どうやらエミヤは最初からバアルを倒すために活動していたらしい。それにしても、雇われた、とは、いったい誰のことなのだろう。まさか、こうなることを理解していた人物がいたとでも言うのだろうか。
「さてカルデアのマスターたちよ。敵は共通している。少なくとも俺とお前たちが戦う理由はない。手を組むか?異世界の騎士王と契約している方は、正規の俺と契約しているんだろう」
「…分かった。俺とエミヤ・オルタ、アーサーで魔神柱を相手取る。立香はアルトリアとモリアーティをボコしてきてくれ」
今は戦力を確保することが肝要だ。唯斗が立香にそう告げると、立香も分かっていたように頷いた。
「分かった、バアルは任せたよ、唯斗、エミヤ」
「もとよりそれが目的だ。魔神柱は任せてもらおう」
こうして、エミヤとアーサー、唯斗で魔神柱を、立香とアルトリアでモリアーティを相手に戦うことになった。矢継ぎ早に事態が進んだことでまだ混乱してはいるが、倒すべきを倒すことはクリアだ。