悪性隔絶魔境新宿II−20


バアルは人型から見慣れてしまった肉柱の姿に変わると、その巨体で天井を破壊して立ちはだかった。
これまでの特異点では、もっと多くのサーヴァントとともに戦った相手だ。たった2騎というのは心許ないが、それでもやらなければならない。

ここで重要になるのは、味方を削られないことだ。魔神柱自体は敏捷性がなく、攻撃は当たる。要はこちらが先にやられることがなければ倒せる相手である。


「エミヤ、俺は結界とお前らの回復に専念する。アーサーと二人、自由に攻撃してくれ」

「言われなくともそうするさ」

「気をつけて、マスター。自衛を最優先にね」


エミヤはそれだけ言ってとっとと交戦を開始し、アーサーは唯斗の頭をぽんと一撫でしてから駆け出した。

途端に、エミヤの銃弾が一気に5カ所以上の鋭い眼球を潰し、アーサーは上の方で目玉を次々と切り刻んでいった。

時折、バアルはその目から光線を発射し二人を狙うが、俊敏に動く二人には当たらない。
エミヤは至近弾で3カ所の目玉をほぼ同時に潰すと、潰れた眼球に立ってその内側に向けてさらに発砲した。
血のような液体が噴き出し、バアルの悲鳴が轟く。暴れたことで天井が崩落し、瓦礫が降り注いだ。

それを結界で避けながら、唯斗は光線がエミヤの足を掠めて焼いたのを確認する。

そちらに向けて手をかざし、治癒術式をかけてやりつつ、足場を作るために下方に結界を板のように展開した。
エミヤは結界を蹴って再び跳躍すると、アーサーが剣で弾いた光線の残滓を避けながら、アーサーの剣戟で潰れた目玉から内側の肉壁へと再び射撃する。

あまりに鮮やか、かつ威力の高い銃撃だ。恐らくあの銃は、普段正規のエミヤが使っている特殊な剣を銃に鋳造したものだろう。
まったくもって、エミヤという英霊の存在が謎だ。

やがて、エミヤの銃弾が破壊した最後の眼球に、アーサーがエクスカリバーを突き刺し、魔力を解放した。宝具の解放ではないが、その魔力がバアルの内側を焼いたことで、バアルは断末魔を上げながら笑った。


「はははは!!やはり滅ぶか我は!!だが復讐は成し遂げた!モリアーティ、よくここまで付き合ってくれた!長きにわたる同盟は、ここで解消としよう!」


それを聞いたモリアーティは、アルトリアの剣をミサイルで撥ね除けると、バアルに返す。


「ああ、さらばだバアル。我が同胞!」


その言葉を最後に、魔神柱は消失した。巨大な影がなくなったことで、空間に広さが戻る。
アルトリアは、剣の切っ先を残されたモリアーティに向けた。


「貴様も終わりだ」

「いや、終わるのは君たちだ。そして、この惑星だ」


モリアーティがそう言った瞬間、突然、建物が振動し始めた。魔力の伝搬による振動だ。
慌てたように通信からダ・ヴィンチの声が響く。


『上空に小惑星出現!この組成は、ベンヌ!だが常に新宿上空はシバでモニターしていた、これではまるで空間転移だ…!』


小惑星ベンヌ、1999年に発見された小惑星であり、モリアーティはこれを弾丸として定めたことで、概念として地球への衝突を実現した。
だが突如として上空に出現したとなると、地球への接近を待っていたというような次元の話ではなかったということだ。

モリアーティは謳うように語る。


「ある物語に曰く。魔弾の射手は、6発は必ず当たり、7発目は愛する者に当たる。そして悪魔は7発目を必ず撃たなければならない」


ウェーバーのオペラに描かれる通りだ。オペラにおいては、その7発目は婚約者に当たろうとしたものの、森の隠者が与えた花冠によって防がれ、主人公を陥れようとした者に直撃する。

魔弾の射手の7発目、それがあの小惑星であるということならば、これは悪魔が撃ったもの。
そこで唯斗は最悪の可能性に思い至る。


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