悪性隔絶魔境新宿II−22


そうして屋上に駆け出ると、夜空が広がり、開けたその広大な空間の直上には、大気圏に突入して眩く光る隕石が見えていた。
見えている距離以上にすぐに到達するだろう。

このバレルより高い建物は存在しないため、新宿のすべてが眼下にある。その夜景の明かりをかき消すかのように、どんどん隕石は輝きを増していた。
この距離ではまだ届かないため、アーサー、アルトリア、エミヤはまだ待機させている。

そこで、エミヤが先ほどどつかれた腹いせか、唯斗に尋ねてきた。


「大口叩いてはいるが、勝算はあるのかね?魔弾の射手の7発目、カルデアによる強制レイシフトをも弾く強固な因果律。これを打ち返すことができると?」

「あんたに説明しても理解できなさそうだ」

「おや、随分と嫌われたな」

「馬鹿にしてるわけじゃない。在り方の話だ」

「勝算があるのかい、マスター」


どうせエミヤには理解できない、なんて返した唯斗だったが、アーサー、そしてアルトリアも気になるようだった。
唯斗はまだ少し時間があるため、考えていることを話すことにした。


「難しいことじゃないんだ。魔弾の射手、その7発目が立香を狙うのは、モリアーティの善性が立香を大切な存在だと認識したから。それはあくまで概念の力だけど、一方で、概念だからこそ紛い物は許されない。善性のモリアーティが立香を大切に思った気持ちは本物だ」

「そうだろうな。私の目にもそう見えた」


アルトリアは頷く。ここまでは誰もが理解していることだ。


「そして、その本物の気持ちがなければ、魔弾の射手の7発目は発動しない。つまり、今もなお、モリアーティの中には、あの善性のときの記憶が残っている。悪性を取り戻したときに立香と過ごした記憶が消えてしまえば、感情もなかったことになる。紛い物じゃ、7発目は起動しない」

「なるほど、つまり藤丸君を大切に思う感情がまだ彼の中には残っているということか」


アーサーは唯斗の説明に合点した。モリアーティの中には、善性の記憶が残っており、それこそが7発目を起動させている。


「その善性を刺激することで、モリアーティの力が削ぎ落とされれば、魔弾の射手の効力が落ちるかもしれない」

「藤丸君にそれを伝えなくて良かったのかい?」

「諦めてる様子だったら言ってたけど、そうじゃなかったから」


そう言った直後、建物に別の振動が走った。階下で戦闘が始まったのだ。やはり、立香は諦めずに戦っているようだ。
エミヤは呆れたようにする。エミヤには分からない、なんて言ったのは、善なる心に賭けるという感情論だったからだ。


「まったく、君も大概お人好しということか。だが…サーヴァントが恐らく4騎、シャドウサーヴァントは200近く、これが世界を救ったマスターの引きの強さというわけだな。それとも、この特異点が人理に影響せずともカルデアのマスターが……いや、無粋だな」


エミヤは階下の勢力を冷静に分析した。呆れてはいるものの、悪意は見えなかった。
サーヴァントが4騎もいる、というのは驚いたが、そのあたりの引きの良さというのは今に始まったことではない。
それが、立香だけでグランドオーダーができたであろう理由だ。そしてそんな立香が、唯斗には、とても大切だった。


「…よし、そろそろだ。エミヤ、お前も固有結界を使えるか?」

「あぁ。君の考えている通り、あの隕石に内側に固有結界を出現させて破裂させることなら可能だ」


どうやらオルタ化したエミヤであっても、固有結界は使えるらしい。それならば話は早い。


「じゃあエミヤがあの隕石を破砕後、アルトリアとアーサーで聖剣を解放してくれ」

「了解した」

「あぁ、任せてくれマスター」


方向性が決まったところで、隕石が揺らいだ。急速に魔力反応が消え、魔弾の射手の効力が弱まったのだと分かる。さすがのタイミングだ。
立香の性根の逞しさに苦笑しつつ、唯斗は指示を出す。


「エミヤ、いまだ!」

「了解。無限の剣製(Unlimited Lostworks)


エミヤは無感動に応じると、固有結界を展開する。その魔力収束は隕石内部に向かい、そして、迫り来る隕石は突如として内側から大爆発を起こした。

エネルギーがあふれ出るように隕石は亀裂からバラバラに砕けて飛散する。


「アルトリア!アーサー!」


唯斗が呼びかけると同時に、二人は並んで立ち、聖剣を構える。二人の騎士王が並び立って体の正面にエクスカリバーを構えているのだ。
その剣は魔力の輝きに光り、アルトリアとアーサーの詠唱が重なる。


「卑王鉄槌、極光は反転する。光を呑め…!」

十三拘束解放(シール・サーティーン)円卓議決開始(ディシジョン・スタート)

『承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド』

「…これは、世界を救う戦いである」

『―――アーサー』


この新宿を救わなくても、人理に影響はなかった。それでも立香は戦うと決意したし、唯斗はそんな立香を信じた。
人理に影響するかどうか、この街に価値があるか否かなどではない。そんなものを度外視してきたからこそ、グランドオーダーは達成されたのだ。


約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!!!」


そして二人の声が重なった瞬間、それぞれの聖剣から膨大な魔力が解き放たれた。爆風と衝撃波がバレルの屋上から空に吹き付け、まるで太陽が現れたかのような光線が降り注ぐ隕石の破片へと向かっていく。
二つの光線は、新宿の街に落下しゆく大量の巨石を、一瞬にして昇華させていった。

聖剣の輝きによる疑似太陽は、常夜の街を眩く照らす。唯斗が初めて見る、そしてきっとこの街の住民たちですら初めてとなるであろう、魔境を照らす昼の輝きだった。
今この瞬間、新宿は昼の明かりを取り戻したのだ。

ただそれも一瞬のことで、隕石の破片すべてをかき消した光が魔力の粒子となって鱗粉のように夜空に散っていくと、元の夜の街へと戻っていく。

それは同時に、この新宿幻霊事件の終わりの合図でもあった。


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