なくしたものと得たもの−3


立香はさすがというか、動揺した唯斗に目敏く気づいたらしく、苦笑して上体を起こし、優しく唯斗の背中を撫でる。


「ごめん、唯斗のことをどうこう言いたいわけじゃないよ。なんだかんだ折れて守ってくれる唯斗が優しい人だってのはずっと分かってたし」

「…、新宿でも言ったけど…もっと早く変われていたら、立香やロマニにも、もっといろいろできたのかなって、どうしても思う」

「唯斗が最初からこういう感じだったら、俺マジで唯斗に恋してたかもしんないから、これで良かったよ」

「いや何言ってんだ」


突然変なことを言い出した立香にため息をつくと、立香はくすくすと笑う。


「はは、でもほんとだよ。今の丸くなった可愛い唯斗に、つらかったグランドオーダーの序盤で優しくされてたらマジで危なかった。俺も唯斗も、一緒に成長してたから、今みたいな背中を預ける相手になってるんだよ」

「……それ、清姫とかの前で言うなよ」

「言わないよ、誰も幸せにならないし」


いたずらっぽく笑ってから、立香は再び空中を見上げる。懐かしむようなそれは、グランドオーダーの序盤のことを思い出していたようだった。


「でも、確かに最初の頃は、俺も唯斗とどうやって接すればいいのか分からなくてさ。ドクターに相談したこともあったな」

「え、立香って人付き合いで誰かに相談するとかあんのか」

「あるけど!?そりゃ唯斗よりはコミュ力あるかもだけど…っていうかそんな唯斗が相手だから相談したんじゃん」

「それはマジでごもっともだ」


とてつもない正論である。
それにしても、立香も立香で、最初の頃は唯斗のことでロマニに相談していたらしい。一般人として、魔術師的な人間だった唯斗とどう関わればいいのか分からなかったようだ。


「…最初は、単に友達になれたら、って思った。やっぱ、一人で人理を背負うとか、しんどかったし。でも、友達になるには、唯斗と俺は、ベースの価値観が違いすぎてて、唯斗はずっとつらい目に遭ってきて…普通の幸せのある生活をしてた俺が分かり合おうとするなんて、すごく唯斗に対して失礼なことだって知ったんだ」

「そんなこと…」

「今はそんなことないって思うかもしれないけど、友達ってたくさんの価値観を共有するものだからさ。暮らしてた世界が違ったんだから、それはそれでしょうがなかったと思うよ。ただ、少しずつでも、そういうことも共有できるようにしたかった。でも、距離を詰める前に、特異点で最初は結構揉めたじゃん?人を殺すな、とか、無駄だろうとやる、とか」


第三特異点までは繰り返し衝突してきた二人だ。あのとき、立香は唯斗と仲良くするために分かり合おうとしたかったようだが、分かり合うには二人の隔たりが大きすぎて、どうやって距離を詰めればいいのか分からず、それでロマニを頼ったらしい。


「ドクターに相談してみたら、ドクターも分からないって言ってた。ドクターも、唯斗のことは唯斗のサーヴァントに任せきりで、特異点で実際に俺を守ってくれるのは唯斗なのに、唯斗に個人的にしてあげられることがないって嘆いてた。アーサー王もいるからあんまり心配はしてなかったみたいだけど。だから二人で分からないねって考えてたんだ」


立香とロマニが裏でそんな話をしていたとは思わず、唯斗はどう反応すればいいのか、と思っていると、立香はぽつりと呟く。


「…でもドクターは、あまり自分と関係の深い人間ばかりになるのも良くないって言ってたんだ。唯斗みたいな距離の取り方をしてる人がいるのも大事だって。俺はそのとき、なんでドクターがそんなこと言うのか分からなかったんだけど…」

「……最後にどうなるのか、分かってたからか」

「そうだと思う。自分に何があってもいいように。実際、唯斗はドクターのことをそんなに引きずらなかったから、新宿でもいつも通り冷静だったし」


そう言う立香だってきっちり切り替えていた。唯斗以上に、立香もマシュもロマニのことで心に深い傷を負っているはずなのに、新宿の探索はしっかりと行えていた。


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