なくしたものと得たもの−5


唯斗が語ったのは、終局特異点から帰還して、珍しくカルデアに青空が広がったあの日、アーサーが話してくれたことだった。
あのときアーサーがロマニの言葉を伝えてくれたからこそ、唯斗はあの日のうちにロマニの喪失と決別することができた。


「…愛と、希望……時間神殿でドクターが言ってたの、そういうことだったんだ……」


ゲーティアと対峙したロマニは、歴史は愛と希望の物語だと述べた。それはかつて、ロマニがアーサーに話した、人理修復のために奮闘するまだ見ぬマスターを意味する言葉でもあった。


「ロマニはきっと、その『誰か』が立香であって良かったと思ったはずだ。もしかしたら、後半では俺のこともそう思ってくれたのかもしれない」

「ッ、」

「俺と立香がカルデアでマスターとして人理修復の旅をした。俺たちがカルデアにいたことは、意味があったんだ」


第七特異点でマーリンとギルガメッシュが言ってくれたことでもある。
たとえ無意味なことに見えようと、たとえ無力だと嘆こうと、紛れもなく、立香と唯斗が生き残ったことは意味があり、やってきたことは正しかったのだ。

だから、人理に影響がないと分かっていて新宿幻霊事件を解決しようと闘い抜いたし、その末に、魔神柱が残り3体も残っているのだという事実も判明した。
後から意味がついてきたのである。


「…俺は、ロマニが託してくれたこの世界が大事だ。だからもう少し、一緒に戦おう、立香」

「っ、うん、うん…ッ!ありがとう、唯斗、おれも、ドクター・ロマンのことが、ドクターが守ろうとしたものが、大切だ…!」


立香はそう言って一際強く抱き締めてから、おもむろに唯斗を抱き締めたままベッドに倒れた。二人して並んでベッドに横になる形だ。
立香の腕に頭が乗るようにして抱き込まれてしまい、唯斗は目を白黒させる。


「立香?」

「あー…マジで唯斗大好きだ……」


まるで抱き枕のように抱き締められているが、立香は感情の高ぶりのままに唯斗を抱き締めて横になったようだ。
噛みしめるように頭上でそう言う立香に、唯斗は抵抗する気も失せて任せてしまうことにする。

存外、居心地も悪くなかった。
抱き締められているのは唯斗だが、胸元に抱き込むようにしている立香は縋っているようでもあり、事実、立香は唯斗に感情をぶつけて凭れてくれていた。

しばらくそうしていた後、唯斗自分より一回り太い立香の腕であってもそろそろ痺れてくるのでは、と思って様子を窺ってみた。


「立香…?」


しかし呼びかけても返答はなく、耳を澄ませてみると、寝息を立てているのが分かった。
なんとこの状態で寝入ったらしい。
相変わらずすごいな、と思わず感心していた唯斗だったが、立香が寝ているということで、唯斗もつられて眠くなってくる。

アーサーや他のサーヴァントたちが隣で一緒に寝てくれたことは何度かあったが、立香が相手であっても、唯斗はリラックスして寝ることができるらしい。
せめて腕が痺れないように、と体を捩って枕を引きずり、立香の腕は首の下で体重がかからないようにして枕に頭を乗せつつ、唯斗も目を閉じる。


そうして眠りに落ちてしまった二人だったが、翌朝、唯斗の部屋で二人並んで眠っていたことがサーヴァントたちに露見し、唯斗に嫉妬する清姫、静謐、頼光の3人と、唯斗に敵意を向けることにキレたモンペのガウェイン、ディルムッド、サンソンの3人が衝突することとなり、唯斗はアーサーに叱られ、立香は弁解に追われたのだった。


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