砂糖は不要−1
1月末に新宿へのレイシフトを行い、そこから帰還したときには2月に入っていた。
そして、これよりカルデアは、魔術協会に提出するデータ資料の改竄を行いつつ、どこかの時空に散っていった3体の魔神柱がどこにいて特異点を発生させようとしているのかの調査を行うことになった。
また、新宿は始まりに過ぎず、ホームズの予想通り、特異点は人理修復後も発生しようとしていた。いや、人理焼却から修復状態への過渡期であるがための特異点の頻発と言っていい。
現段階では揺らぎに過ぎないが、経験上、これが小特異点と化すであろうことは百戦錬磨のカルデアスタッフにはすぐ分かることだった。
そのため、カルデアは警戒態勢が続くこととなり、一度退去した英霊も何人か呼び戻したり、新たな召喚を行ったり、という戦闘力の確保を行うことになった。
ただ、今回はとりあえず、立香だけが新規サーヴァントを呼ぶことになっている。マシュがレイシフトできないためだ。
そうしてカルデアに新たにやってきたサーヴァントは、ジャンヌ・オルタ、アルトリア・オルタ、モリアーティ、燕青の4騎という見事に新宿で縁を結んだ相手であった上に、これに誘発されたためか、ジャンヌ・ダルクまで現れた。
ジャンヌ・ダルクはルーラーであるため、ジャンヌ・オルタについては例によって特異点で生まれた存在だったために、二人ともこれまでの記憶をすべて持っている。
また、モリアーティと燕青は新宿でサーヴァントとしての存在を確立させて召喚システムに引っ張られたため、記憶がそれなりに残っていた。
アルトリア・オルタは記憶こそないが、早速ジャンヌ・オルタとやり合っていた。
こうしてまた賑やかになったカルデアに、再びあの日が訪れた。
「唯斗、今年はどうする?」
食堂でアーサーと昼食を取っていたところ、立香に呼び出され食堂の隅で二人になる。声を潜めて聞いてきた立香に首をかしげた。
「なんの話だ?」
「決まってるじゃん、バレンタインだよ。去年やったからには今年もやるでしょ」
「え…マジ?」
「去年のバレンタイン以降に召喚されたサーヴァントにとっては不公平だしさ」
「それは…そうだけど……」
そう、バレンタインである。
去年は第四特異点の後にバレンタインがやってきたため、その時点までにカルデアにいたサーヴァントに対しては、立香と唯斗はチョコレートを用意していた。
まさかグランドオーダーが終わってもこうして英霊たちに囲まれる状況が続くとは思っていなかったこともあり、まったく考えていなかった。
しかし立香の言うことももっともだ。
「ていうか絶対期待してるでしょ、アーサー王も」
「あー……」
「本命ってやつ?」
ニマニマとする立香に、唯斗は咳払いをする。
「…何にせよ、今年もやるってのは同意する。またブーディカに頼むのか?」
「そのつもり。今回は外から材料発注できるから、唯斗の分も頼んどくね」
「助かる、さんきゅ」
簡単に打ち合わせを終えて唯斗は席に戻る。
向かいに座るアーサーは「どうかしたのかい?」と聞いてきたが、曖昧に返しておいた。
本命。そう言われてしまうと、そういうものを用意するのか、となんだか変な感じがした。浮き足立つというか、気恥ずかしいというか、なんとも言いがたいものだ。
本当にそんなものを渡すのか、自分が、アーサーに。
きょとんとする向かいのアーサーの顔を見るのが急に恥ずかしくなって、唯斗は誤魔化すように茶を飲もうとして、コップが空になっていることに舌打ちをした。