砂糖は不要−6
「だが答えは出ているんだろう?寂しそうだが、迷ってはいない」
「…うん、寂しいけど、今を大事にしようと思う。でもあれだな、こういうものもらっちゃうと、忘れられないっていうか…」
「君に忘れて欲しくない、と思ってしまったんだろう。まぁ、それは俺も同じだがね」
エミヤにしてはストレートな言い回しだ。
唯斗はつい、隣に座るエミヤに凭れる。あまりこの男とこういう距離になったことはなかったから嫌がられないだろうか、なんて一瞬思ったが、エミヤは特に何も言わず唯斗を抱き締める。
アーラシュと同じくらい太く晒された腕に囲われ、インナー越しに触れるエミヤの体の熱を感じる距離だ。
「…嫌じゃないか、悪い、急に」
「まさか。君のサーヴァントの中で、君から甘えられることに快く思わないサーヴァントはいないさ」
少し不安になった唯斗を安心させるように、エミヤはそう優しく言ってくれた。
唯斗とて、エミヤにそこまで嫌がられるだろうとは思っていなかったが、エミヤの優しさはこれまでずっと実務的なものだったため、こういう接触は珍しかったのだ。
ただ、そう言ってくれるのなら安心できた。
唯斗はより深く、エミヤの胸板あたりにすり寄ってみる。エミヤは頭上で笑うと、唯斗の頭をまた撫でた。
「なるほど、君に構いたがるサーヴァントたちの気持ちもよく分かる。可愛いな、君は」
「……別に可愛くはねぇだろ」
「ふっ、いや、ずっと前から君が可愛いとは知っていたが、改めて思ったのでね」
なぜ揃いも揃って可愛い呼ばわりされるのか、とさすがに唯斗は微妙な気持ちになる。どう反応すればいいか分からないのだ。
とはいえ、サーヴァントの、とりわけ男性たちは体格も人格も遥かに優れているため、その圧倒的な差をよく知ることから、嫌な気持ちはしていない。まぁ彼らからすればそうだろう、という割り切りに近い。
何より、唯斗のサーヴァントたちは「可愛い」と述べる言葉に様々な感情を乗せている。言葉だけの意味ではない。それを唯斗も知っているため、目くじらを立てることはなかった。他の言葉であっても良いのでは、とも思うのだが。
そこでふと、唯斗はカルデアに戻ったら聞こうと思っていたことがあったのを唐突に思い出した。
それは、あの新宿でエミヤ・オルタに出会ったことで改めて疑問に思ったことだった。
「…なあエミヤ」
「なんだね?」
「…新宿でさ、お前のオルタ版に出会ったんだけど」
ベッドの縁に並んで腰掛けた状態で抱き締められたまま、唯斗はエミヤに聞いてみることにした。
エミヤも自分のオルタが特異点にいたことは知っている。
「あぁ、私もそう聞いている」
「オルタの方は新宿で、魔神柱を倒すために雇われた、なんて言ってた。でも、時間神殿から逃げ出した魔神柱がいるなんてことを知ってサーヴァントを雇うなんて、とてもじゃないけど普通の存在じゃない。そう思ったら、そもそもエミヤってどういう英霊なんだろって」
「また随分と今更な疑問だな。むしろいつ聞かれるかと思っていたが」
「自分から言わないってことは、知らなくても良かったことだろ。俺が知らないレベルの存在なのに強いし、でも宝具はなくて、それなのに固有結界なんてとんでもない魔術が使える。第二特異点にいたっていう諸葛孔明とも違う、他の英霊の依り代でもない。それって結構とんでもないことだから、時が来るまで聞かなかったんだ」
「そしてそのうちにグランドオーダーが終わったと」
「そういうこと。だから、言いたくなければ言わなくていいからな」
エミヤのスペックは正直イレギュラーにもほどがある。それでもその点を唯斗が追求しなかったのは、知るべきことであれば申告があるはずで、それがないなら首を突っ込まないでおこうという理由からだった。
タイミングを逃していた、ということも十分にある。
エミヤは「君らしいな」と苦笑しつつ、唯斗の頭を依然として撫でながら答えた。
「守護者、という存在を知っているかね」
「…?守護者?サーヴァント・クラスとかってことか?」
「いや、クラスとは別だ。存在定義の話で、英霊としてのイレギュラーだ。抑止力に遣わされる、人理を守護する者をいう」
「は…?抑止力?」