砂糖は不要−10
クサントスと何やら言い合い始めたアキレウスと別れ、唯斗は次のサーヴァントの元へと向かう。
次の相手はガウェインだ。これまで顔を合わせる機会は多かったどころか、ほぼ毎日一度は会っていたのだが、アーサーの手前、唯斗と部屋に二人、という状況を避けようとするだろう。
そのため、先ほど念話で場所を聞いて自分から出向いている。
ガウェインは自分が行くともちろん申し出てくれたが、どこに誰がいるか分からないため、人気の少ない地上階のエントランス近くを指定した。
すぐに、猛吹雪の窓越しの世界が広がる廊下に到着し、そんな寒々しい光景であってもまさに太陽の騎士然りとしているガウェインの姿が見えた。
「急に呼び出して悪いな、ガウェイン」
「いえ。それにしても、このような場所で改まってどうされたのです?」
首をかしげるガウェインに、唯斗は一息にチョコレートを渡してしまうことにした。色々と言わずとも分かってくれる相手だからだ。
「はい、これ。サーヴァントたちに配り歩いてるんだ」
「なんと!これは、バレンタイン、というものですね。いえ、あなたから頂戴できる可能性を考慮していなかったわけではありませんが…」
ガウェインは目を見張ってから、途端に喜色を前面に浮かべた。
こんなもの、もらい慣れているだろうに、本気で嬉しそうにしてチョコレートを受け取っている。女性スタッフから渡されていそうなものなのだが。
「望外の喜びです、マスター」
「そんなにか…?」
「もちろんですとも!本来であれば飛び上がって喜びを示していたところです。ここには他にも何名か円卓の騎士がおりますし、我が王も何人かいらっしゃるものですから…そうでなければ抱き上げていました」
他の騎士の手前、そんな大仰に喜びを示すわけにはいかない、ということらしい。さすが、騎士道そのものな円卓の騎士たちである。
しかしガウェインはそう言ったあと、少しだけ顔を曇らせる。
「…とはいえ、考慮はしていましたが、私は花の魔術師ほどではないにしろ遅くにやってきたサーヴァント。戦いに参加できた特異点はバビロニアの一つだけです。最も長くあなたをお守りしてきたエミヤ殿やサンソン殿ら歴戦のサーヴァントたちならまだしも、私にまでいただけるとは、身に余るようにも感じるのです」
なんと、ガウェインにしては珍しくそんな弱気なことを言い出した。いや、ガウェインはオジマンディアスのように尊大な自信を持つ者ではなく、実力と実績に裏打ちされたものだ。だからこそ、実績の部分が足りないと考えているらしい。
唯斗は今一度、周囲に人の気配がないことを視界の強化で一瞬だけ確認してから、ガウェインの手を取った。
チョコレートを持っているガウェインの左手を掴み、その防具のついていない手の平を撫でる。
「っ、マスター…?」
「確かに、グランドオーダーとしての特異点は第七特異点だけだったけど、小特異点とかはしょっちゅうガウェインを頼ってるし、何より…」
正面からガウェインの精悍な顔を見上げ、その瞳と目を合わせる。
「…やっぱ、一番弱いとこ見せちゃったから、ガウェイン相手なら、なんつか、全力で気を抜けるというか、弱いとこ見せられる相手がいるってだけで楽になるから。アーサーと同じくらい、心ごと凭れられるっていうか、そういう意味でも頼りにしてる」
「マスター…」
「…なんて、情けないとこ見せつけられるガウェインからすれば迷惑かもだけど」
「まさか!そのようなこと、決して!身も心も守ってこそ騎士です」
ガウェインはそう言うと、おもむろに跪いた。膝を着き、騎士らしい忠節の姿勢になる。
「ガウェイン…?」
「過去にも申し上げましたが…あなたは立派なマスターです。英霊への敬意と信頼はあなたの誠実さの上に成り立ち、どんなときでもそれを忘れず相手を尊重する優しさとともに発露される。あなたのサーヴァントとして現界できた喜び、どのようにあなたにすべてお伝えできるのでしょう。そんなあなたに頼られ、甘えていただけるのなら、騎士として、英霊として、そして一人の男として、誇らしく嬉しいものです」
流暢に、かつはっきりと一息に述べたガウェインに、唯斗はさすがに少し気恥ずかしく感じたが、それ以上にやはり嬉しい。何せ、幼い頃から親しんだ円卓の騎士ガウェインからの言葉なのだから。