砂糖は不要−11
するとそこに、金属の足音が次第に聞こえてきた。ガウェインは立ち上がり、表情を緩める。
「おや、ちょうど円卓の騎士たちがやってきたようです」
「え、こんなところに?いったいなんで…」
どうやらガウェインには聞き慣れたものだったらしく、すぐに円卓の騎士たちだと分かった。
それは本当で、近くの階段から男たちが上がってきた。廊下を曲がり、こちらを視界に入れた騎士たちがやってくる。
先頭を歩くのはトリスタンとベティヴィエール、後ろにはランスロットも続く。モードレッドやアルトリアの姿はなかった。
「おや、お邪魔をしてしまいましたか」
「トリスタン卿、それに気づいていなかったあなたではないでしょう」
唯斗たちの近くまでやってきた騎士たちに、ガウェインは少し呆れたようにする。トリスタンはにこやかに肩を竦めた。
「唯斗殿が異世界の騎士王からあなたに心変わりするような御方ではないと存じていますからね、告白の場に割り込む、というような無粋なものではないと思ったのですが」
「まったく。それで、何の用です?」
こんな辺鄙なところに来たのだ、騎士たちはガウェインに用事があったはず。唯斗は渡すものも渡したし、これで次に行くか、とも思ったが、彼らの用事はまさにバレンタインに関することだったらしい。
「ガウェイン卿がいくつチョコレートをもらったのか賭けをすることになってね。私とトリスタン卿で賭けの結果を確認しようとしたところ、唯斗殿に失礼がないようにとベティヴィエール卿も同行している」
「申し訳ありません、唯斗殿。せめてガウェイン卿との御用事が済むまで待たれよと諫めたのですが、時間的に大丈夫だろうと。失礼はなかったでしょうか」
ベティヴィエールは恐縮しながらそう聞いてくれた。トリスタンの言うとおり、アーサーと一緒にいるときならまだしも、ガウェインと二人だったのだから問題はない。
「…問題があるようなこと話すときはもっと違う場所に行くからいい。で?賭けの結果は?」
話を聞いたからには結果だけ聞いてから行こうと確認を促すと、ガウェインが答える。
「私はマスターから頂戴したこの一つです。そも、このカルデアでチョコを配っているのはマスターと藤丸殿だけでしょう」
「おや、意外でしたねランスロット卿。卿は昨年に続き今年も2、3個ほど女性スタッフからもらっていたのでは?」
「…トリスタン卿、別にその数を競うためにここに来たのではないぞ」
慇懃な話し方をしているが、内容はまるでチョコの数を競う男子のそれだ。結構、円卓の騎士といえど低俗な話もするし、なかなか等身大なところもある者たちである。
ガウェインもそれに気づきつつ、さらっと比較されたことに笑顔で頬をひくりとさせた。
「私はマスターからいただけただけで十分です。色気を振りまくような品のない行為は慎みなされよ」
「私は決してそのような。まぁ、私は昨年、唯斗殿から頂戴しているが」
「………ほう?」
ランスロットもやめればいいのに、ガウェインの煽り文句にそんなことを返した。完全に巻き込まれている。とっとと場を離れようとしたところに、ガウェインがこちらを向いた。
「マスター、今年もこの男にチョコレートをお渡しになるのですか?」
「え……」
正直用意している。だがそれを言うとガウェインが拗ねそうだ。すでに若干拗ねている。
どうしたものか、と思っていると、さすがというかベティヴィエールが助け船を出した。
「いい加減になさいお二人とも。これはマスターや唯斗殿のお気持ちの表れ、その有無を尋ねるなどそれこそ無粋というもの」
「…卿の言うとおりでした。申し訳ありません、マスター」
ガウェインはすぐに、ベティヴィエールの言葉に頷いて唯斗に謝った。そういうところは、やはり成熟した大人だ。時に中学生男子のようなことをすることもある彼らだが、基本的には騎士なのだ。
すると、聞いていたトリスタンが首をかしげる。
「それにしても唯斗殿、なぜランスロット卿にも用意されたのです?あまり関わりがあったようにも思えませんでしたが」
「あぁ…ランスロットには、たまに話し相手になってもらってたっていうか…ぶっちゃけ、フランス語版の円卓の物語で育ったから、ランスロットに憧れがあって」
「あなたと語らう時間をいただけたのです、むしろ私こそあなたに感謝を伝えるべきでしたのに」
ランスロットはふわりと微笑む。昨年、ランスロットに渡した際にも同じようなことを言われた。自分のサーヴァント以外では、ランスロットなど限られた人物にしか渡していなかったのだが、ランスロットは真っ先に渡すことを考えた相手だった。
当然だ、唯斗にとって円卓の騎士の物語は、暗いフランスでの生活での、ほとんど唯一の明るい要素だったのだ。
そうだ、それだけでも、理由としては十分だった。