砂糖は不要−12


「…昔から、円卓の物語を読んでたんだ、小さい頃に唯一読ませてもらえた小説だったから。誰かのお古でもらったボロボロの本」

「…、フランスでの暮らしの際のことですか」


ガウェインはランスロットから視線をこちらに戻し、痛ましそうにする。その深い紺色の瞳は、幼い頃の唯斗の暮らしを知るが故の苦しそうな表情が窺えた。


「グロスヴァレの本邸にあった歴史書と、生活してた別邸にあった円卓の物語。俺に居場所をくれた本だ。そこに描かれる騎士であるガウェインやみんなに会えたんだ、それだけで、俺はたくさん感謝してるし嬉しい」


誰からも存在を否定されながら暮らしたフランスでの生活。その孤独の中で唯斗に居場所をくれたのが歴史であり、だからこそ唯斗はグランドオーダーを無意識に肯定的に受け入れた。人理を繋ぐことが、かつて自分を救ってくれたものである歴史への恩返しのようなものに思えたからだ。
そしてもう一つが円卓の物語であり、普通の小説では唯一、家で自由に読むことができた本だった。その物語を読み耽ることも同じように、唯斗にとっては気が楽になる時間だったわけである。

唯斗は改めて、取り囲む騎士たちを見渡す。


「…だから、ありがとう。俺を一人にしないでくれて。あなたたちの生きた証が、その物語が、一人だった俺の傍にいてくれたんだ」


その唯斗の言葉を聞いて、騎士たちは少し目を丸くしたあと、すぐに優しく微笑んだ。紳士のそれというよりも、もっと純粋な笑みだ。


「我々の生き様が未来の子に寄り添っていたとは…あぁ、なんと人類史とは不思議なものなのでしょう…」


トリスタンはそう言いつつ、「これはロマンあるメロディができそうです…」と竪琴を出現させる。
それを見て苦笑しながら、ベティヴィエールも頷いた。


「本当に数奇なものです。しかし、同時になんたる僥倖かとも思います。とりわけ私はあの特異点で英霊になった身、彼の地で共に戦えたあなたと再会できただけでも嬉しいというのに、これ以上の嬉しい言葉をもらえるとは」

「その通り、私たちこそ光栄です、唯斗殿。できれば私自身があなたに寄り添いたかったところですが、あなただからこそ、かの世界の王との縁が生まれたのでしょう」


ランスロットも続けてそう言ってくれた。さらりと口説くようなことを言っているが、さすがに相手がアーサーということもあってほんの些細なものだ。

一方、ガウェインはランスロットの言葉が終わると同時に、突然唯斗を抱き締めてきた。
分厚い体に抱き込まれ、急なことに唯斗は驚く。


「え、どうした」

「……ハッ、た、大変失礼をいたしましたマスター!」


唯斗の問いかけに少し間を置いてから、ガウェインはがばりと離れた。本気で驚いている。驚きたいのはこちらだが、ランスロットたちもポカンとしていた。


「私ともあろう者が、つい感情が抑えきれず…あなたを抱き締めたくなってしまい、その感情のままに動いてしまいました。無礼をお詫びします、マスター」


本当に無意識での行動だったらしく、ガウェインはあわあわとしている。
どうやら、ガウェインは唯斗を大事に思ってくれているが故に、自分たちの物語が後世で唯斗に寄り添っていたのだという事実を聞いて、感情が大きく振れたらしい。それほど強く、唯斗のことを考えてくれているのだ。

遅れて、ランスロットたちは呆れたようにため息をついた。


「気持ちは分かるが、慎みなされよ、ガウェイン卿」


そっくりそのまま返したランスロットに、ガウェインは「返す言葉もありません」と落ち込んでいる。
そんな大層なことでもないだろう、と、唯斗は離れたガウェインに一歩近づき、今度は自分からその胸の中に体を寄せた。


「ま、マスター?」

「全然構わない。あったかくて好きだし。なんつか、太陽の騎士って感じで落ち着く」


鎖骨あたりに目元を置くようにしてそっと抱きつくと、ガウェインが息を飲むのが聞こえた。太陽のような暖かさと、最も弱っているところを見せてしまったときにそれを受け入れてくれた相手であるという事実も相まって、ひどく落ち着いてしまうのだ。
とはいえ、衆目もあるため、唯斗はそこでいったん体を離す。


「じゃあ俺そろそろ次のサーヴァントにチョコ渡しに行かないとだから。またな」


騎士たちとガウェインにそれだけ言って、唯斗はその場を後にした。


ちなみに、その背後で「ガウェイン卿?」「し、死んでる…」という会話が繰り広げられていたというのは、後から笑い話としてトリスタンから聞かされたことだった。


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