悪性隔絶魔境新宿I−6


令呪に魔力を籠めて呼びかければ、眩い雷光とともに交差点にアーサーが出現した。落雷のような衝撃波がコロラトゥーラを何体か吹き飛ばす。


「呼ぶのが遅いよマスター!」

「こっちの台詞だ、来るのが遅いだろアーサー!」


気配を辿って唯斗に向かってきていたはずだが、それにしてもアーサーにしては到着が遅かった。
アーサーは早速、周囲のコロラトゥーラを一掃してから残りの数を確認する。


「とりあえず撤退だ、怪我したんだね?」

「傷そのものは治ってる。撤退には賛成だ、上に行こう」

「了解」


アーサーは近づいていた個体を薙ぎ払ってから、唯斗を抱きかかえて伊勢丹の屋上へと飛び上がる。そこからさらに隣の雑居ビルの屋上に跳躍して、唯斗はアーサーの腕から降りた。


「敵性体は接近してないな…アーサーはどこに着地したんだ?」

「四谷三丁目のあたり。かなり端にいたんだ。君の気配は感じ取れていたから全速力で向かっていたんだけれど、あの状況ならもっと早く呼んで欲しかったな」

「1999年の新宿に魔獣なみの敵性体がいるとか思わないだろ。想定外だ。通信機も壊れたし…立香は大丈夫かな」

「範囲は狭いけれど、合流するには骨が折れる…というか、通信ができないなら極めて難しいだろう」


唯斗は屋上から靖国通りをちらりと見つつ、通信機が壊れてしまえば合流は難しいと分かりきったことを言ってきたアーサーを睨む。


「アーサーがそばにいてくれなかったからだろ」


アーサーは唯斗の言葉に一瞬驚いたようにしてから、苦笑して唯斗の頬を防具で覆った無骨な指で撫でる。金属の冷たさにぴくりとすると、アーサーはわざわざその防具を消して改めて唯斗の目元をなぞった。


「…ごめんよ、君を守るべき僕が遅れてしまっては、サーヴァントとしても恋人としても失格だ」

「……、いや、悪い、ただの八つ当たりだ」

「君からならなんでも嬉しいよ」


わりと最悪な状況でのスタートとなったことや、アーサーを呼ぶ判断が遅れたことで通信ができなくなった失態などに対して、唯斗がアーサーに八つ当たりをしていることはアーサーにはお見通しだったようで、その上でアーサーが謝った。
とはいえ、アーサーは本当に嬉しそうにしながら唯斗の頭を撫でて腰を抱き寄せてきたため、八つ当たりですら嬉しい、というのは唯斗でもそれが本当だと分かる。


「…まぁいい、とりあえず、なんとかして立香と合流しないと。どこか目印に…なりそうな……なんだあれ」


どうにかして合流しなければ、と唯斗は切り替えて周囲を見渡す。アーサーも恋人モードから、体を離してサーヴァントとしての振る舞いに戻る。
そこで唯斗は、西の方向にそびえ立つ見慣れぬ高層建築物に目をとめた。
アーサーも唯斗の視線を追って、異様な光景に眉を寄せる。


「あれは…確か、あそこは東京都庁があったんじゃなかったっけ?」

「あぁ、よく知ってるな。300…400メートル以上あるか?あんなでかい建物、建てられないだろ」


1990年に完成した東京都庁は、1993年の横浜ランドマークタワーの完成まで日本一高い建物だった。都内では2007年のミッドタウンタワー完成まで最も高い建物の座を維持する。
しかし今の新宿には、そうした建物を遥かにしのぐ巨大な建物が聳えていた。400メートル以上はありそうな高さ、幅も一区画分ありそうな円柱状の建築物である。


「あんなものがあるってだけで、確かに特異点になり得るだろうけど…それでも人理を揺るがすわけないしな…でも、現代の東京にあんな敵性体が跋扈してるような異常ってのは、それは人理に影響する可能性があるか」

「そうだね。とにかく藤丸君が心配だ、カルデアとも連絡を取らないと。目印になりそうなところに行くか、あとは…」


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