悪性隔絶魔境新宿I−7
するとそこに、西の方から爆発音が聞こえてきた。激しい銃声と戦闘音だ。まるで戦争中のような、銃声や砲声が建物に複雑に反響する音である。
「…さすがにこの火力はサーヴァントだろ。行こうアーサー」
「同意するよ。抱えた方がいいかい?」
「頼む、今はスピード優先だ」
アーサーは頷くと、唯斗を抱きかかえてビルの屋上から高く跳躍した。
新宿三丁目付近から、代々木方面を目指して繁華街の上を強く蹴って進んでいく。アーサーの腕に抱えられながら過ぎていく眼下の通りを見るが、やはりどこも治安の悪い様子だった。普通の人間など一人もいない。
やがて線路を越えて西側へと出て代々木エリアに入ったが、今度はとんでもない吠え声が夜空に響き渡った。
空気をビリビリと震わせる咆哮は、とても野良犬のようなもののそれではない。単なるオオカミなどではない、明らかに桁違いの化け物だ。
「甲州街道の方からだ。なるべくビルの屋上に沿って高く飛びすぎないように接近してくれ」
「了解した」
線路の西側、甲州街道の南側に広がる小規模な繁華街を、ビル伝いに跳躍してアーサーは進んでいく。
そして甲州街道に面したビルの屋上に着いたところで、唯斗は腕から降りて眼下の大通りを見下ろした。
通りの西側、超高層ビル群の方へと続く方向を見ると、片側3車線の甲州街道に、巨大なオオカミが見えた。車より大きなトラックサイズの巨体で、街灯を破壊して走っている。
そんなオオカミから逃げるようにして走り出したのはバイクだ。いかついバイクは新宿でもよく見るものだが、他に走行する車がないため目立っている。
「あれは…」
アーサーはそのバイクを見て驚いたようにしていた。さすがに唯斗の目では、あっという間に通りを過ぎていくバイクに乗っていた人物はよく見えなかった。
しかし、運転する女性の後ろに立香がいたのは確認できたため、唯斗はすぐにアーサーのそばに戻る。
「アーサー!」
「分かってる、追おう!」
アーサーはすぐに唯斗を抱えると、バイクを追って再び屋上を蹴った。
バイクは新宿マインズタワー方面に向けて南へ折れていくのが音で分かる。
「なんて速さだ、こんな状況でなければ市街地で出していい速度じゃないぞ…」
「サーヴァントだよな、あれ」
「あぁ、マスターにも分かる通り、あれはサーヴァントだ。ちょっと普通ではなさそうだけど…」
そうして通りに降り立ったアーサーは、サーヴァントの痕跡を辿って走ったが、少し進んだところで立ち止まった。
バイクの走行音はしなくなっており、このあたりでバイクを降りて建物に入った可能性がある。
唯斗もアーサーから降りてコンクリートに降りると、静かな夜の街の中、辺りを慎重に見渡しながら進んでいく。
そこに、聞き慣れた声がかけられた。
「唯斗、アーサー!」
「っ、立香!良かった」
二人を呼んだのは立香だ。明かりの消えたハンバーガーショップの前で立香が二人を呼んでおり、すぐそちらへと走る。
よく見れば店内にバイクが止められており、立香は二人を地下へと促した。
「とりあえずこっち、隠れ家みたいだから」
『通信できない状況で合流できたのは重畳だ』
立香の通信機からダ・ヴィンチの声も聞こえてくる。本当に、偶然ではあったが、戦闘音が聞こえれば立香がいるだろうことは分かっていたため、逆も然りであろうことから、最悪は暴走族まがいの騒ぎ方をしながら新宿を駆け巡るほかなかった。
「あれ、唯斗怪我したの?」
「もう治ってる。立香は大丈夫か?」
「なんとかね」
そう話しながら地下に降りると、そこにはまさに隠れ家といった感じの部屋があった。自動販売機などいろいろ便利なものが揃っている。
その部屋の主らしい女性は、こちらを見て片眉を上げる。
「ほう?妙なこともあるものだ」
「本当にね」
女性に対してアーサーが答えるのも道理だ。彼女はアルトリア、この世界のアーサー王だ。だがロックな服装をしており、見たところオルタ化している姿に思える。
「オルタか…?」
「その通り、私は変質したアルトリア・ペンドラゴン。よろしくな、異世界の私とそのマスター」
「よろしく、立香のことありがとう」
「礼には及ばん。さて、早速だが本題だ」