砂糖は不要−14
ようやく残る二人となったが、正直一番気が重い二人が残っている。
どちらも古代の王、手作りのものを渡していいのだろうか、という気持ちはいまだに拭えない。ギルガメッシュは去年渡しており、質より量というのを言われたため、許してはくれるだろう。
オジマンディアスはどうだろうか、と思いながらシミュレータールームにやって来ると、シミュレーター内で渡しても意味がないことに気づく。
いったん外に呼び出す必要がありそうだ。
まずはシステムから霊基を検索し、オジマンディアスの入っている空間を確認してから、そこが彼の常駐する領域でないことを意外に思う。それはフランスを再現した空間だったからだ。
とりあえず唯斗もシミュレーター用のコフィンに入ってシステムを起動すると、意識が薄れる感覚とともに、一瞬で周囲の景色が変わる。
「…オジマンディアス、いるか」
「呼んだか」
だだっ広い草原は当然唯斗一人だったため、オジマンディアスを魔力の籠もった声で呼ぶ。それを聞き届けたオジマンディアスは、すぐに唯斗の近くに現れた。
「悪い、呼び出して。それにしても、なんで大神殿じゃなくてフランスの再現空間にいるんだ?」
「カルデアは狭苦しくて敵わんからな」
どうやらオジマンディアスは同じ光景を見続けるのも飽きたらしい。あの大神殿だけでなく、ナイル川沿いにオジマンディアスが建造した施設は無数にある。様々な都市にも滞在し、ときに戦場へ行くこともあった彼にとっては、代わり映えしない景色は辟易とするのだろう。
「して、わざわざここまで来るとは、何やら用があるのであろう?許す、申してみよ」
「あー…、その、バレンタインのチョコレートを用意したから、渡したくて」
「…うむ、余はそれをすでに知っているぞ。当世の風習だとニトクリスより聞き及んでいる。存外にまぁ、あれも愉快な色に染まっていくものだ」
オジマンディアスは、ニトクリスから話を聞いているらしい。そういえばニトクリスも、オジマンディアスのためと言って作りつつ立香に渡す分を用意していた。
唯斗にも、味見をしろと言ってしっかり作られたものを渡してくれた。それならば、オジマンディアスに渡す唯斗も同じ事をすべきだろうとニトクリスにお返ししたが、思えば古王朝最後の女王にして魔術女王でもあったような人物にするには気軽過ぎただろうか。
とはいえ、それを気にする素振りもなかったのだが。
「シミュレーターの味覚再現は微妙だから、できれば外で渡したいんだけど…」
「良かろう。余の寝室まで来るがいい」
オジマンディアスは、尊大だが寛大だ。簡単に許可してくれたため、唯斗はオジマンディアスとともにシミュレーターを出て、オジマンディアスの寝室へと向かう。
しばらく廊下を歩いて、オジマンディアスに宛がわれた部屋の扉をスライドさせて入れば、そこは大神殿と同じ意匠の豪勢な空間になっていた。
椰子にも似た砂漠地帯の観葉植物に絹のレースカーテン、天蓋付きのベッド、黄金の燭台やテーブル、深紅の絨毯、目がチカチカしそうなものだ。
恐らく、ギルガメッシュと同じように予備のシミュレーターサーバーを持ち込んで投影している。だが、テーブルや燭台などは自分の魔力と固有結界である大神殿の一部を具象化しているようでもある。
それをしげしげと見ていると、オジマンディアスに頭を小突かれる。
「疾く貢ぎ物を余に見せよ」
「あ、悪い。はい、これ」
「ほう、中南米の皇帝が口にしたとかいう、苦みと甘味と共に練り上げて形作る菓子だったな。無論知っている。余は現代知識の吸収にも余念がない」