砂糖は不要−16


本気でくらりときた唯斗は、思わず床にしゃがんだ。
まさか、スフィンクスそのものを渡されるとは思っていなかった。幻想種の頂点である神獣、その中でもさらにトップクラスのものであり、このスフィンクスたちだけで一つ世界の真理に近づいてしまう。

しゃがんだ唯斗に、スフィンクスたちはとてとてと歩いてくると、思い思いに唯斗の背中によじ登ったり足に纏わり付いたりと自由に遊び始める。
その中の一匹を抱き上げて立ち上がりつつ、背中の個体を支えてやりながら床に下ろした。
抱き上げられたスフィンクスはキョトンと唯斗を見上げている。確かに可愛い。しかしとんでもない事態である。


「ふはは、動揺しているな。無論、ウェヘムメスウトそのものではない。余の魔力と貴様の魔力を混ぜて作られた分身のようなもの。正確にはスフィンクス・アウラードと呼ぶのが正しい。よく愛玩し、よく育てるがよい。余が許す。自然と貴様からごく微量の魔力を吸収して成長するだろう。まぁ、当然さほど育つようなものでもないがな」

「そういう理屈か…いや、にしてもマジでこんな…」


アウラードたちはすぐに懐いてくれていて、残る二匹は唯斗の足に纏わり付いており、腕の中の一匹もごろごろと甘えてきてくれている。愛らしいものの、宇宙でできているとんでもない体のひんやりとした感覚が、神獣なのだと実感させた。
それにしても、と唯斗は思い至る。


「オジマンディアスと俺の魔力で生まれたってんなら、なんだか俺とファラオとの子みたいなモンだ、な………」

「………」

「……や、待って、今のなし。マジで失言だった、悪い、忘れてくれ頼む」


動揺の末か、唯斗はとんでもないことを口走ってしまった。すぐに訂正したが、恥ずかしいことを言ってしまった羞恥心が急激に湧き上がり、顔に熱が集中する。
しかし黙っていたオジマンディアスは、突然、唯斗の腰をぐいっと引き寄せて、その褐色の体に唯斗を抱き込んだ。


「う、わっ」

「何を言うかと思えば、大胆なものだな?」

「ちが、マジでほんとに今のなし…!」

「だが誘いにしてはいじらしい。万物万象我が掌中にあり、お前を孕ませることもファラオなれば可能であろう」

「な…、なに言って…」


恐る恐るオジマンディアスの顔を見上げると、至近距離に意志の強そうな瞳があり、その目にははっきりと欲の色が浮かんでいた。
背中に回された腕はがっちりと唯斗を離さず、精悍な顔が次第に迫ってくる。この男が配慮などするはずがない、それも相手がアーサーであれば気にしないだろう。これは本当にまずい、と思ったその瞬間、唯斗が抱いていたアウラードがおもむろに動いた。
てし、と前足でオジマンディアスの口元を押さえて動きを止めさせたのだ。

まるで猫が嫌がるような挙動に、二人して完全に静止する。

そこに、扉がスライドする音が響いた。


「何をしている太陽の」

「…黄金のか。視ていたな」

「フッ、だが視ていたよりもずっと、滑稽な場に出くわしたがな」


入ってきたのはギルガメッシュだ。呆れた顔をしているギルガメッシュを見て、オジマンディアスは唯斗の体を解放してベッドに腰を下ろす。


「興が冷めた。唯斗よ、油断するなと他の英霊どもから再三言われているであろう、いい加減学ばねば、余は憚ることなどないぞ」

「……心得てる」


窮地を脱したことで息をついた唯斗だったが、オジマンディアスすらも呆れたようにしており、さらにギルガメッシュは防具のついた手でごつりと唯斗の頭を軽くはたいた。少し痛んだものの、この王がそれで留めたあたり、やはり加減されている。

唯斗はアウラードを三匹とも抱き上げて、踵を返したギルガメッシュに続く。こちらの要件も理解しているだろう。
唯斗は部屋を出る前にオジマンディアスを振り返る。


「ありがとう、オジマンディアス。もう少しだけ、一緒に戦って欲しい」

「途中で放り投げるなどファラオの沽券に関わる。せいぜい足掻くがよい」


そんなぞんざいな言い方ながら、ひどく優しい声音に、唯斗はアウラードを抱き締め直してから部屋を後にした。


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