砂糖は不要−19
シミュレータールームを出てギルガメッシュにチョコレートを渡せば、これですべてのサーヴァントにチョコを渡し終えたことになる。
と、そこまで考えたところで、アーサーをサーヴァントとしてカウントしていなかったことに内心で苦笑する。「恋人枠」だなんてこっ恥ずかしい考え方を、まさか自分がするとは思っていなかった。
自室への道中、お返しを忘れたと言ってガウェインが慌てて駆け寄ってきて、なぜか化粧品セットを渡された。「わが王の隣に立つのです、清廉な心はまず清廉な見た目からです」と余計なお世話を焼かれたが、とりあえず受け取った形だ。
そうして自室に到着し、中に入れば、すでにアーサーが室内にいた。
「あぁマスター、先に失礼していたよ」
「や、俺こそ遅れて悪い」
少し約束の時間を過ぎている。
アーサーはデスクチェアに腰かけ、足元でじゃれつくアウラードたちを眺めていた。
「これはスフィンクスの幼体だね。ライダーからかい?」
「そう。マジで失神するかと思った」
「魔術師ならみんな卒倒するだろう」
アーサーはそう笑って言ってから立ち上がり、唯斗の正面にやってきた。当然、アーサーも要件は理解している。
唯斗はいったん冷蔵庫からアーサーに渡す分のチョコを取り出して、アーサーの前に戻る。そして、恥ずかしさで視線をそらしながら手渡した。
「…ん、これ」
「ありがとう、唯斗」
アーサーは名前を甘い声で呼ぶ。恋人モードだ。いまだにこの切り替えに慣れないが、唯斗の手元からアーサーの手に渡ったチョコを見て、一応説明を入れる。
「……その、本命、だから」
「本命?」
どうやらアーサーは本命チョコシステムを知らないらしい。首をかしげる姿に、唯斗は結構今ので勇気を出したにも関わらずもっと言わねばならないのか、と呻きたくなる。
「…えと、日本では、友人とか同僚とかにもばら撒くことがあって、日ごろの感謝とかで。だから俺も立香も配ってるわけだけど、だからこそ、恋人とか好きな人には、本命チョコ渡してバレンタインの本来の意義を際立たせるっていう風習が…あってだな……」
しどろもどろになって説明した唯斗を見て、アーサーは小さく微笑んでから、そっと唯斗を抱きしめた。
銀の甲冑を消したアーサーの体に抱き締められ、肩口に頭をのせて慣れた温もりに息をつく。
「困ったな、君が可愛すぎてどうすればいいのか。嬉しいよ、ありがとう」
「火ぃ出そう…恥っず……」
日本で浮足立っていたクラスメイトたちは、こんな思いでチョコを贈り贈られていたのだろうか。こんなところで英霊相手にそれを知るとは、本当に数奇なものだ。
すると、アーサーは少し体を離して唯斗を覗き込む。
「それで唯斗、これまで他のサーヴァントたちにチョコを配ってきて、何もされなかったかい?大丈夫だった?」
「大丈夫だって…」
「本当かい?こんな可愛いのに」
恋人として接するアーサーは、容赦がない。ダイレクトな言葉の数々がクリティカルヒットする中で、唯斗は先ほどからの羞恥も相まって投げやりに答える。
「大丈夫だって言ってるだろ、漏れなく全員に抱き締められたり、オジマンディアスに孕まされそうになったくらいで、別に何も……」
「………ライダーが、なんだって?」
「あ………」
一瞬沈黙が落ちたところで、唯斗はさっと体の内側が冷える感覚になる。口は禍の元となぜ学ばないのか。自分に辟易としつつ、唯斗は誤魔化すようにしゃがんでアウラードを一匹抱き上げた。
「ほ、ほら、アウラードよく見てみるか?」
「唯斗」
「うぐ…」
アーサーの逃がさない、という声音に、唯斗は仕方なくアウラードを抱き上げたまま立ち上がる。
そして、唯斗はアウラードの背中、翼の合間に顔を埋めるようにして顔の前に持ち上げた。正面のアーサーに面と向かうアウラードはキョトンとしていることだろう。
アウラードで顔を隠すような形だが、そのまま唯斗は口を開いた。