悪性隔絶魔境新宿I−8


早速唯斗は、アルトリア、そして立香と情報共有を行った。

まず立香を助けたのは、アルトリアだけではなく、「新宿のアーチャー」と名乗る髭のアラフィフ男性サーヴァントもいるとのことだ。アーチャーは甲州街道でのオオカミのサーヴァントとの戦闘を行い、明日新宿駅で合流することになっている。

立香が他に交戦したサーヴァントとしては、あのコロラトゥーラの主であるファントムがいたようで、これは敵性とのことだ。
また、あのオオカミは幻霊、すなわち実在していないフィクションの存在がサーヴァントとなったもので、オオカミの上には欧米の古い都市伝説である首なし騎士デュラハンがいるらしい。さすがにオオカミについては特定は難しい。

共有できたのはそこまでで、それ以上は情報不足だ。


「分からないことだらけってのは理解した。それで?明日はとりあえずアーチャーと合流するんだよな。新宿駅のどこで集合するんだ?」

「そうなるよね…」

「……まさか、詳しい合流地点決めなかったのか?」

『やはりそれほどに迷宮なんですね…』


マシュが通信越しに言うため、すでにこのやりとりはやったのだと理解する。
アーサーは首をかしげた。


「何か問題が?」

「新宿駅って言っても、西武新宿線を入れて6社11路線、一日あたりの乗降者数はウルグアイの総人口を上回る」

「おっと…なるほど」


新宿駅の乗降者数が国家の人口であれば世界131位の国に相当するため、新宿駅の一日あたりの乗降者数を下回る人口の国家の数は60あまり存在することになる。


『まぁそのあたりはこちらで調整しておくよ。マシュはそろそろ休憩、マスターたちも寝なさい』

「了解、って言っても床かな…」

『固い床で寝るのも良い経験だよ』

『帰ったらマッサージしますので!それでは先輩、良い夢を…!』


ダ・ヴィンチとマシュに励まされつつ、立香は「ま、いっか」と言って床にごろりと横になる。立っていた唯斗とアーサーだったが、立香がリノリウムの床に横になるなりすぐに寝息を立て始めたのを見て、場所を探す。

サーヴァントであるアルトリアは寝る必要がないため、サモエドのような白い犬を構ってやっている。
カヴァス2世と呼ばれている犬は懐いているように見える。カヴァスはアーサー王が最も愛した犬の名前だ。


「賢そうな犬だね、カヴァスの名を与えただけある」

「私がブリーディングしているのだ、当然だろう」


カルデアのアルトリアと話している姿もそうだが、アーサー王同士が話しているというのはやはり違和感がある。
アーサーは軽く会話を切り上げると、唯斗を見下ろした。


「さて、マスターも寝よう。藤丸君と違って、君の場合は床では寝られないだろう」

「おや、そちらのマスターは神経質なのだな」

「悪いな、寝るのが下手なんだ俺は」

「僕や他のサーヴァントと一緒であればわりとすぐ寝られるようになっただろう?」

「随分と甲斐甲斐しく奉仕するじゃないか、異世界の私は」


からかうような言い方をしたアルトリアに、アーサーは珍しく苛立ったように眉を寄せた。同じ自分相手である分、感情を表に出しやすいのかもしれない。


「変転しているだけある、軽薄なところはまるでマーリンのようだ」

「なに?」

「ちょ、何してんだお前ら。アーサー、変転していようと同じアーサー王なんだ、馬鹿にするようなこと言うな。アルトリアも、引き際を弁えられないのは単純にスマートじゃない」

「…フン、曲がりなりにも、と言ったところか。いや、私も別にお前を軽んじるつもりはなかった。グランドオーダーを成し遂げたお前らの功績、私も称賛している。異世界の自分と話すという物珍しさでついからかってしまった」


アルトリアは意外にも肩を竦めて謝った。アーサーもため息をつくと謝る。


「私も、マーリンのようだ、とはさすがに言い過ぎた」

「世界が違うのにマーリンがすごい罵倒みたいになってる…」


二人ともマーリンに似ているという言葉を最上級の悪口だと思っているあたり、マーリンとはどちらの世界においても同じ立ち位置のようだ。

これで話も終わり、アーサーは壁際に向かうと、壁に凭れて座る。
防具を消して膝を開くと、その膝の間に唯斗を招き入れた。アーサーの服がどうなっているかいまだによく分かっていないのだが、恐らく肌着は円卓と同じ黒いものだの思われる。その上に、足首まである長い丈の白いラインの入った詰め襟の青い上着を着て腰で留めており、その下には黒いズボンを履いている。
青い上着は腰できっちりと留めているため、上半身は体のラインに沿っているが、腰から下はゆったりと広がり、動きやすいよう両足のそれぞれの正面で腰から足首まで大きくスリットが入っている。このスリットによって、体の正面に前掛けをしているようにも見える。
このゆったりとした腰下の生地があるため、床に直接腰がつかないようになっており、アーサーはそれを敷物のようにしてくれている。

唯斗はそこに腰を下ろすと、横向きにアーサーの上体に凭れた。左側をつけるような姿勢は狭い場所で仮眠するときにしていたもので、アーサーの体の温もりを感じながら瞼を落とす。アーサーは唯斗の体を抱き締めて、立てた膝で背もたれのように唯斗の背中を支えてくれている。

ひどく甘やかされているようなこの姿勢は、最初こそ恥ずかしかったのだが、今では慣れてしまった。

こうしてアーサーの匂いと温もりを感じながら、膝と腕に囲まれたこの姿勢はとても安心する。それによって、睡魔がすぐにやってきた。


「おやすみ、唯斗」


小さく額にキスを落として囁いたアーサーに、「ん、」とだけ返してから、唯斗は意識を手放した。


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