深海電脳楽土SE.RA.PH−6


礼拝堂周辺を徘徊していたヴラドをなんとか倒したところで、ようやく一同は安全地帯である礼拝堂に到着した。
中には事前にサーヴァントがいるとメルトリリスから聞いていたが、中に入ってみれば、なんとエミヤ・オルタがいた。新宿以来となる。
向こうもこちらをきちんと覚えており、この特異点にも何か目的があってのことのようだった。

順当に考えれば、新宿同様、生き残った魔神柱を倒すことと推測され、このSE.RA.PHにも魔神柱がいる可能性が高まるが、彼がそれを語ることはないであろうことから、今は何も聞かずに休息を優先する。
なお、SE.RA.PHに流れる時間は、ここが情報化された空間であることもあって、地上の100分の1に相当するようだ。そのため、数時間休んでも問題ない。現実世界で深海に到達して水圧崩壊を起こすまで、ここでの体感時間はそれなりにある。

そうして2階の個室で6時間の休憩を取ってから、一同は1階に集まる。事前に、ここに残された記録を閲覧することになっていた。


ここを管轄していた人物が残した電子記録のようで、記録装置を起動するとアナウンスが流れる。


『この記録は秘匿されたものですが、閲覧目的で残されたものです。閲覧対象は1名のみです。再生後、記録は削除されます』

「んー、それはセラフィックスの主任クラスの権限ね。見る人間の脳に直接データを送るとかなんとか」

「魔術科学による記録装置だな。人間しか開けないだろうから、俺か立香かマーブルの誰かってことになるけど」


マーブルが装置の説明をしてくれたため、閲覧できるのは人間3名の誰かということになる。
マーブルは「おなかが痛くなってきました!」と言っている。最初からこのポンコツそうな者に託すつもりはなかった。


「じゃあ俺が見るよ。精神汚染があっても、俺は巌窟王がいるから。唯斗よりなんとかなる」

「……、分かった。様子がおかしくなったら遮断するからな」

「うん」


立香には巌窟王がついているため、こういう精神干渉には耐性がある。リスク回避という意味では適切だ。
心配なのは確かだが、ここは立香に任せることにした。

立香が実行キーを押すと、装置は記録の再現を開始する。
祈る者のための長椅子に腰掛けた立香は目を閉じてそれを閲覧するが、どんどん顔色が悪くなっていく。大丈夫だろうか、と隣でいつでも装置を停止できるように待機する唯斗だったが、閲覧が終わったのか、立香はゆっくり目を覚ました。


「立香、大丈夫か」

「…うん、大丈夫。あんま気分は良くないけど、話せるよ」


確かに気分は悪そうだったが、それでも声音はしっかりとしていた。唯斗はほっと息をついてから、立香の説明に耳を傾けた。

立香が話した記録の内容。それは、外部との連絡手段がなくなって電脳化していくセラフィックスにおける、恐慌状態の有様だった。
視点はここに赴任した女性のセラピストだったらしく、なんとか人々に理性を残させようとしていたが、途中、何やら得体の知れないものに取り憑かれてしまったらしい。「無数の目」という言葉から、やはり魔神柱では、と推測する。

一通り話を聞いたエミヤ・オルタは、感情のない声で頷いた。


「閉塞状態による集団のカルト化、暴走。ふん、大方の予想通りだな」

「でも天体室なんて部署あったかしら…?」


一方、マーブルは首をかしげる。立香が見たものの中には、「天体室の実験を再開してはいけない」というものがあったらしい。
メルトリリスは代わりに答える。


「天体室はSE.RA.PHの中心にあるわ。セラフィックスを電脳化させている動力源よ」


すなわち、天体室には油田基地を電脳化するだけのエネルギーが存在するということだ。そんな莫大なエネルギーがどうやって生み出されているというのか。
アニムスフィアは時計塔の天体科を司る君主の家柄だ、その名を冠する部屋なのだから、やはり当初の予想通り、セラフィックスを特異点化するに足る「何か」がここにはあると見て間違いないだろう。


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