深海電脳楽土SE.RA.PH−8


タマモキャットの救出という名の戦闘を行い、エミヤ・オルタの荒療治によってなんとか霊基が復旧したタマモキャットを仲間にしたところで、一度礼拝堂に帰ってきた。
活動限界時間であることもあったが、エミヤ・オルタがタマモキャットの改造された部分を銃弾で撃ち抜いたことで矯正したため、その治療が必要だったからだ。

ちなみにタマモキャットはエミヤ・オルタを「デトロイトのエミヤ、略してデミヤ」と呼んでいる。内心でしっかり笑っている唯斗を、アーサーは少し呆れたようにしていた。

とりあえずはタマモキャットの回復がてら、次の行動の方針を決める話し合いの場となった。

礼拝堂の長椅子にそれぞれ腰掛け、通路に立ったままのガウェインが切り出した。


「いま行けるエリアはすべて探索しましたが、中央管制室、胸部エリアに繋がる道は依然としてありません。探索を続けるか、撤退も考慮するか…マスターはどうお考えですか?」


ガウェインに問われた唯斗は、一つ前の長椅子に座る立香と目を合わせる。


「…撤退はないな。BBからの干渉を受けるリスクがあるし、このままセラフィックスを放置するのもリスクだ。何より管制室にまだ生存者がいる」


立香も頷いて、「それに、」と続けた。


「本当に全部回ったのかな?SE.RA.PHが人の体でできてるんなら、まだ背中に行ってない」

「良い観察眼です、立香」


トリスタンもどうやら立香と同じ事を考えていたようだ。言われてみれば確かに、ここが人体なら背中にはまだ行っていないことになる。

マーブルも、頭を巡らせて元の構造を思い浮かべる。


「みんなの話を聞いていると、地質調査分室と、資源圧縮・乾燥室、ゴミ捨て場が出てきてないかも」


やはりマーブルから見ても、施設の数が足りないらしい。唯斗の隣に座るアーサーは、メルトリリスに目を向けた。


「メルトリリス、君は残りの施設を知っているね?」

「そうね。これ以上表側を探索しても収穫なさそうだし、そろそろあっち側の話をしてあげる」


メルトリリスの話では、SE.RA.PHは表面と裏面との二重構造になっており、背中側がまだ未到達であるそうだ。そもそもメルトリリスは背中側のセンチネルだったらしく、その後、BBに逆らって破棄されたとのことである。
壁に凭れていたエミヤ・オルタはそれを聞いて口を開く。


「しかし、どうやってそちら側へ行く?それらしいルートはなかったが」

「表と裏を自由に行き来できるのはセンチネルだけ。裏側に行きたいなら、そうね、SE.RA.PHそのものに裏返ってもらうしかないでしょうね。方法は自分たちで考えて」


その方法が分からなければ打つ手なしでは、と思ったところに、長椅子に寝転がっていたタマモキャットがむくりと起き上がる。


「ふむ。ではキャット二十七奥義に頼るしかあるまいよ。回らぬのなら回して見せようネコハンド。すなわち、最も弱い部位を攻撃するのだな。笑う門には福来たる、リンクスリンクス大回転ときた」


思わず唯斗は隣のアーサーを見上げたが、アーサーは首を横に振る。慣れたと思ったが、やはりキャット語は理解しがたい。


「…なるほど。私は悔しい…なんと美しいリリックでしょう…」

「うーん、まぁ大体分かった」


そしてトリスタンと立香は理解しているようだった。いや、トリスタンはどうか分からないが。
とりあえず立香がマスターとして理解しているようだったため、今はそれでいい。それよりも大きな問題がある。


「裏側の探索のあと、裏側のブレスト座標にあたる場所で表に戻れば管制室に行くこともできるはず。でも、問題はパッションリップとかいうブレストのアルターエゴだ。なんであれ、管制室の生存者を救出するには避けては通れないし、管制室の探索も欠かせない」

「その通りですマスター。あの力はとても、通常戦闘でなんとかなるとは…」


ガウェインもパッションリップをどう倒すか検討がついていない。アーサーのエクスカリバーでかき消すことができるかもしれないが、その火力では管制室も崩壊してしまう恐れがある。
何より、立香の表情は、そういうことを考えているものではなかった。


「…で、立香はパッションリップのこと、倒すつもりじゃないな?」

「……うん。だってあの子、つらそうだ」

「なんだそれは、本気で言っているのか、おまえ」


エミヤ・オルタははっきり疑問を口にした。まぁ、彼はそうだろう。一方、ガウェインやアーサーは分かっていたようにして驚きはない。
メルトリリスは呆れたようにしつつも、微笑んだ。


「…馬鹿ね、お人好しにもほどがあるわ、あなた。でも、愚策でもない。パッションリップはあの拘束具で操られている。助け出せばきっとあなたの力になるでしょう。私と違って素直だから、助けられたら最後まで恩返しをするタイプよ」

「くだらん。パッションリップ攻略には付き合わんぞ」


エミヤ・オルタはパッションリップとの戦闘には同行しないというが、それは織り込み済みだ。


「ま、立香はそう言うだろうとは思った。メルトリリスの言うとおり、戦力になるならあの力は心強い。やるだけやってみよう」

「ありがとう唯斗。でも、まずいことになりそうだったらちゃんと倒すことも視野に入れてるからね」

「分かってる」


立香がそこまで考えていることも、もちろん理解していた。
そろそろ現実世界でのセラフィックスの潜水も、かなりの深度に達していることだろう。あまり長い時間をかけたくもないが、急がば回れ、というのもまた確かである。


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