深海電脳楽土SE.RA.PH−9


休息後、再びトリスタンとマーブルを礼拝堂に残して、一同は脇腹にあたるセパレータ区画にやってきた。
タマモキャット曰く、ここでBBから貸与されたくすぐりハンマーを使えばひっくり返すことができるという。


「…本当にこの方法で裏側に行けるのでしょうか」

「もちろんだともガウェイン卿!脇腹こそ人体の急所、エステサロン希望の星なのだな!それではやってやるのだご主人!」


立香も半信半疑といった感じだが、手に持ったハンマーで、思い切り青白い電脳化された地面を叩いた。
ちゃちな見た目のハンマーであるにも関わらず、その瞬間、地面が大きく揺れ動く。本当に、世界がひっくり返ろうとしているのだ。
バチバチと歪む床に、エミヤ・オルタはため息をついて、ガウェインは目を輝かせた。


「どうなってんだマジで…」

「あのBBとやらのやることだ、常識は当てにならないね」


もうめちゃくちゃだ。アーサーも諦めたようにしていたが、ふと顔を上げる。


「…まずい」


そしてそう呟いた直後、遠くから少女の苦しむような歌声が響いてきた。
最悪なことに、このタイミングでパッションリップがここまでやってきたらしい。持ち場のブレストを離れてここに現れるとは。
メルトリリスも焦ったように立香を振り返る。


「急いで!もっと強く叩きなさい!早く転移しないと、間に合わない!」

「ここは私が!」


すると、ガウェインがその場を駆け出し、目にも留まらぬ速さでパッションリップの懐に入った。確かに、ゼロ距離ならば視界に入らない。
だがそれは同時に、あの巨大な金属の爪による打撃を受けるということでもある。

屈強なガウェインでも、その爪の膂力によって弾き飛ばされるが、すぐにまた間合いに入り、パッションリップの移動を食い止める。


「それはノーだイケメン!センチネルはひとりで止められる相手ではない!戻れ、あるいは逃げるのだ!」


タマモキャットですら焦って呼び止めようとするが、ガウェインが押さえつけていないと恐らく間に合わないだろう。

もちろん、立香のパッションリップを助けたいという方針には賛成だ。だが、唯斗はマスターとして、優先するべきことがある。


「…行くぞ、アーサー」

「あぁ」

「ちょ、唯斗!?」


唯斗は足に最大限の強化をかける。これで動けば唯斗の足もそれなりにダメージが入るが、そう言っている場合ではない。幸い、情報化されている空間であるためいくらかマシだろう。現実世界に戻ってから筋肉痛で地獄を見そうだ。
第五特異点から帰還したあとの筋肉痛を思い出すと今からげんなりするが、帰還できればそれすら愛おしく思えることだろう。生きているとはそういうことだ。


「お前らを無事に行かせられればいったん離脱することもできる。背面の探索は任せたぞ」

「…分かった。気をつけて」


立香の了承も得て、唯斗はアーサーとともに地面を蹴ってパッションリップの方へと飛び出した。
彼女の視界に入る前に、その死角となる背中へと移動しつつ、ガウェインに指示を出す。


「関節に剣を入れて背面に回れ!」

「マスター!?なぜ、」


パッションリップからは距離を取っているが、このくらいならサーヴァントであれば唯斗の声は聞こえるし、ガウェインのでかい声も聞こえる。


「決まってる!お前のマスターだからだ!!」

「ッ、マスター…!」

「手を貸そうガウェイン卿、我々が押さえつけなければマスターの命も危ない」


アーサーもそう言ってガウェインの隣に駆け寄り、ガウェインが剣をパッションリップの爪の関節に差し込めるよう動きを封じる。
10メートルほど離れたところで唯斗は周囲の構造を確認し、遮蔽物を見極める。

すでに立香たちは位相反転を完了し、姿が見えなくなっていた。いったんはノルマ達成だ。


「我が王!なぜマスターが危険と分かっていながら…!」

「マスターは私たちサーヴァントと共に戦うと覚悟している。その上であそこに立っている。それに応えず何が騎士だ、何がサーヴァントだ。貴殿も覚悟を決めよ、ガウェイン卿。その剣、今は誰のために振るうのか」


その体からは考えられないほどの強さでパッションリップの動きを止めるアーサーのおかげで、ガウェインもなんとかガラティーンを関節に突き刺し、背面に回ることに成功した。これで圧縮されるリスクは低減される。
その一方で、アーサーは珍しくそんなことをガウェインに問いかけた。

異世界の王とはいえ、王として、太陽の騎士に覚悟を問うている。

ガウェインはハッとしたように目を見開いてから、こちらを振り返る。唯斗と目が合うと、ぐっと表情に決意を滲ませた。


「…失礼を、異邦の我が王、そしてマスター。この聖剣はマスター、唯斗にお預けしたもの。共に戦ってくださるとのお覚悟、理解していなかったわけではありませんでしたが…あぁ、これほど背中を頼もしく思ったのはいつぶりでしょう」


ガウェインはそう言って、パッションリップの体と爪を掴み、地面に足を踏ん張って力を込める。


「この太陽の聖剣が照らすは彼の未来。そのために…私はここにいるのです」

「…では、ここが踏ん張りどころだガウェイン卿」


立香たちが戻ってくるまでの耐久だ。しかし、唯斗のサーヴァントの中でも頑強な二人が並んでいるのだ、唯斗の采配次第できっとくぐり抜けられるだろう。


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