戦いの在り方−1
3月後半頃、新宿をきっかけに生じたいくつかの特異点の座標特定と優先順位付けが完了し、一つ一つ潰していくことになった。
これから4月にかけて何度かレイシフトを行って修復を行うことになるが、いずれも小特異点であり大きな影響を及ぼすものではない。
リソースも外部の世界が復旧した今、回収する必要はないのだが、魔神柱の手がかりがない今、自分たちの足で調べる他なかった。
国連からも魔神柱探しのレイシフトは一括して承認を受けている。
いずれも日本、あるいは20世紀末という新宿に近しい時代・地域の小特異点を立香と二人で探索していたが、3月末、4度目のレイシフトというところで、ダ・ヴィンチから懸念が伝えられた。
管制室で立香とマシュとダ・ヴィンチとでブリーフィングをしていると、ダ・ヴィンチがモニターを見てため息をつく。
「…さて、今月ラストのレイシフトなわけだが。今回は少し癖があってね」
「癖、ですか?」
首をかしげるマシュに、ダ・ヴィンチは頷いてモニターのホログラムを大きくした。
「見ての通り、山だ。日本の森深い山岳地帯。集落はなく、生活する人間の姿もない。こんなところが小規模とはいえ特異点になるとは、いったい何が影響しているのか分からないんだよ」
映し出されたシバの観測映像は、確かによくある森林の山だった。人の生活する空間など一切ない、なんの変哲もない山である。
「歴史は人が作るもの、人理は人が繋ぐものだからな。人の生活ない空間で特異点が生じるってのは確かに不自然だ」
「森だと探索しづらいね」
唯斗と立香の言葉にダ・ヴィンチは「その通り」とげんなりする。ここまで予想が立てられない場所に派遣したくはないのだろう。
「そこで、だ。山岳地帯ということもあって、探索は面倒だろう?サーヴァントも、この空間を考慮して編成して欲しいんだが…立香君、どうする?」
恐らくダ・ヴィンチの中では理想のメンバーが固まっているのだろうが、まずは意見を聞く形を取っている。立香と唯斗の考えを尊重するつもりなのか、ギルガメッシュのように二人をより成長させるためなのか。両方かもしれない。
「うーん…クラスは広範囲の捜索が可能なルーラーかな。場所への適正、ってのも考えると、天草とか?」
「ふむ、私も同意見だ。ただ、ジャンヌ・ダルクでも構わないよ?場所への適正はそこまで考慮しなくていい程度の場所だ。天草四郎は、ね」
ダ・ヴィンチが言葉を濁したのは、先日のレイシフトで起きたことに起因する。
場所は特異点Fに近似した冬木市で、やはりというか原因は大聖杯で発生したエネミーによるものだった。
立香だけがレイシフトを行い、帯同していたのは天草など日本のサーヴァントだったのだが、なんと天草は大聖杯を見て、立香に敵対する姿勢を見せたのだ。
これはカルデアでも衝撃が走った。サーヴァントの離反は、当たり前に想定されることだったのに、やはりマスターが立香だからか、そんなことは起こらないとでも全員が考えていたかのようだった。
しかも裏切ったのは、列聖こそされていないものの聖人級の扱いをされている天草四郎。教会の認定がなくとも、間違いなく日本の正教会では天草は聖人に等しい扱いだ。
そんな天草が裏切りを働くとは予想外だったために、当然、紛糾した。
多くのサーヴァントが退去させるべきだと主張したし、唯斗は立香に任せるとは言いつつ、退去もやむなしと思っていた。
なぜ裏切ったのか、それは「私自身の大いなる目的のためであり、この目的は私をサーヴァントたらしめる根幹ですので変えられるものではありません」とのことだった。
ただ、これも大方の予想通りだったが、立香は天草を退去させることはなく、何度でも止める、と言って天草をカルデアに残すことに決めた。
もちろん、あの一件以来、立香のサーヴァントたちは天草の行動に目を光らせているため、天草自身も身動きできないという結果は伴っている。
そんな決断をした立香に対して、天草はとりあえずマスターとして従うことを優先し、聖杯をことあるごとに狙うことを隠さなくなった一方で、立香とその目標である人理継続に力を貸すと約束した。
その件を踏まえてダ・ヴィンチはジャンヌ・ダルクでもいい、と立香に言ったが、立香は首を横に振った。
「やっぱ日本だったら何かと天草の方が融通利くし、大丈夫。唯斗は平気?」
「大丈夫。俺は上空から捜索できるアキレウスを連れてく」
「…ふむ、了解。異論はないよ。サーヴァントも2騎で十分だろう」
ダ・ヴィンチもこうなることは分かっていたようで、苦笑しながらも了承した。