戦いの在り方−2


そうしてレイシフト当日、管制室にアキレウスと二人でやってきたところ、中に入って天草を見たアキレウスは「げぇっ」と声を出した。


「お前もいんのかよ…」

「おや、随分と嫌われてしまったものですね」

「嫌いとかじゃねーけどよ…」


過去の現界の記憶を鮮明に持っている方の英霊であるアキレウスと、ルーラーというクラス柄そうである天草の口ぶりから、二人は過去に同じ現界をしたということになる。
カルデアの状況が特殊なのであって、本来は聖杯戦争という殺し合いでしか一緒になることはない。ただ、ルーラーは聖杯戦争において調停役だとされるため、敵対したかまでは分からない。

知っていれば考慮したかもしれないが、二人とも、任務は任務で割り切ってくれるはず。

立香と唯斗はそうアイコンタクトで会話してから、コフィンへと向かった。


***


いつも通り、レイシフトは無事に成功する。

降り立った場所は山道で、舗装もない土の道だった。ただ、轍があるため車が通った痕跡はあった。
森の向こうに高圧電線が見えるため、人工物はゼロではないが、それでも人の暮らしが近くにあるような場所ではない。

曇天の下、森林に覆われた山道は遭難でもしそうで不気味である。


『聞こえるかい?』

「聞こえてるよダ・ヴィンチちゃん。着地した場所は特に何もないけど、そっちは観測ある?」

『いいや、こちらも何か反応はないかと探っているが、それらしきものはない。申し訳ないが、虱潰しに調べてもらうしかない』

「了解…あれ、雨だ」


これは地道な作業になりそうだ、と思った矢先、曇天から雨が降り出した。頬を打った雨水は、すぐに大粒の雨となり、雨量は急に増していく。山の天気は変わりやすい、すぐに止むだろうが、ものの1分で土砂降りとなってしまった。


「最悪のコンディションだな」

「ほんとにね…」


二人でため息をつきつつ、まずは歩こう、と思ったときだった。
ダ・ヴィンチの鋭い声が響く。


『待った!敵性反応!』


そうダ・ヴィンチが言うより一瞬先に、天草が抜刀して敵の攻撃を受け止めた。
どうやらゾンビのようで、向こうも日本刀を持っていた。武士のゾンビだろうか。天草はキリスト教の赤いカソックに日本刀というアンバランスな戦闘スタイルだが、巨大な爪である黒鍵という武器も使う。
多彩な攻撃手段は、ますます彼の出自を分からなくさせる。ただの反乱軍の指導者には見えなかったのだ。

いずれにせよ、突如として現れたゾンビ、さらにはソウルイーターの群れによって、山道はあっという間に戦場となった。


『なぜいきなり敵が!?なんの予兆もなかったというのに!』

『先輩!唯斗さん!敵性体、数は30以上です!』


マシュは冷静に敵の数を教えてくれた。ダ・ヴィンチはすでにこの事象の解析に移っている。
こちらもやることは単純だ。ただ戦う、それだけである。

すでに天草もアキレウスも戦闘を始めており、主に小回りの利く天草がゾンビを、攻撃が大仰なアキレウスがソウルイーターを相手にしていた。
土砂降りの雨の中でも、二人は難なく戦っている。

立香は唯斗のところに駆け寄り、唯斗は結界によって二人が討ち漏らした残党の攻撃を防ぎつつ、倒せるものは倒す。

すぐに敵は半分にまで減ったが、そこで、ぐらりと地面が揺れた。
地震かと思ったが、そうではない。地面に亀裂が走り、バキバキと木々が折れる音が一斉に響く。
岩がぶつかる音、石同士が激突する乾いた音も聞こえてくる。まさか、と思ったときには遅かった。


「マスター!!」


アキレウスは即座に戦いを中断すると、唯斗のところへと一瞬で至り、唯斗を抱き上げて崩れ始める地面を蹴る。

土砂崩れだ。山の斜面ごと、山道が崩壊し始めていた。
天草も立香を抱えて退避しようとしたが、そこに生き残った敵が現れて攻撃を行う。かろうじて天草は黒鍵で弾いたが、その際、二人に向かって落下する岩石への注意が散漫になっていた。


「っ、ヴィアン!!」


咄嗟に唯斗は岩の大部分を転移させたが、それでも影に隠れて見えなかった別の岩が立香を直撃した。天草もゾンビを叩き切ってから岩を切ろうとしていたが、間に合わなかった形だ。
肝が冷える感覚になるが、天草が立香を抱えて崩落しなかった山道に着地したところにアキレウスと着地すると、呻く声が聞こえてまずは安堵する。


「俺が応急処置をする、二人は戦闘を続けてくれ。ダ・ヴィンチ!」

『分かってる!立香君の帰還準備!』

『座標が確定し次第、ルートをお伝えします!』


カルデアも通信越しにバタバタとしている。
唯斗は泥だらけで倒れる立香に治癒術式を展開しながら、背後でアキレウスと天草が戦っているのを気配で確かめる。二人は何も言わずに敵を狩っているため、本気で1秒でも早く駆逐しようとしているのが分かった。

やがて二人の戦闘が終わるのと同時に、カルデアでの帰還レイシフト準備が完了した。


『すまない、レイシフト可能地点はそこから陸路だと距離がある』

「分かった。アキレウス、立香を指定座標まで連れてけ。立香の通信機は生きてるから直接指示が行く」

「了解した。マスターは?」

「…唯斗さんは私が。ちょうどこの道を下りたところに浅い洞窟があります、雨を凌げるでしょう」

「信用ならねぇ。さっきのだって、わざと藤丸に怪我させたんじゃねぇのか」


アキレウスが立香を連れて行く代わりに天草が残って唯斗を警護する、という提案に、アキレウスは食い気味にそう言った。どうやら天草のことを本気で信用していないらしい。
だが天草は、いつも柔和な笑みを浮かべるその目に剣呑な色を灯した。


「これでも己のマスターを守り切れなかった自分の至らなさに怒りを感じているので。余計な口を叩くのはやめていただけますかね」

「あ?」

「…アキレウス。いいから早く立香を頼む。俺をどうこうするメリットがねぇだろ」

「……分かった」


立香の状態がまずいのも心得ているアキレウスは、低い声で了承を返し、立香を抱き上げる。応急処置は済んでいるが、早く帰還させなければ。

アキレウスがレイシフト座標に向かってから、唯斗は処置のためにしゃがんでいた姿勢から立ち上がって、天草に目線を向ける。ほぼ同じ高さで目が合うサーヴァントは珍しい。


「じゃあ頼む」

「はい、こちらへ」


信用しきれるかどうかは微妙なままだ。しかし、先ほどの怒りは、守れなかったことへの苛立ちにほかならず、天草なりに立香を大事に思っているのだと理解できた。
それだけで、とりあえずは信用しようと思えた。


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