戦いの在り方−3


天草に連れられて、唯斗は斜面を下った先にある洞窟までやってきた。
先ほど土砂崩れがあった山肌の洞窟に入るというのは少し勇気がいるが、見たところ本当に浅い数メートル程度のものであり、そもそもたとえ土砂崩れが起きても唯斗なら結界や転移術式でどうにでもなるか、と思い至る。

洞窟の中に入ると、天草は入り口に近いところで腰を下ろす。一応、敵性体の接近を警戒しているのだろう。
そして天草は、自身の左隣、洞窟の奥側の方を示す。


「こちらへどうぞ」

「……失礼する」


どうしても警戒を解くことができないままだが、天草は気にせずにいる。
その左側に唯斗も座り、外から響く土砂降りの音が反響する洞窟を見渡していると、おもむろに天草は赤いカソックを消した。
直後、それを再び出現させると、ふわりと唯斗の肩に掛ける。


「…え、」

「いったん消失させたので、乾いています。礼装があるので風邪にはならないでしょうが、体が冷えると戦闘にも支障が出ます」

「…、ありがとう」

「あと、嫌かもしれませんが」


天草はそう言って、カソックに包まる唯斗の肩を抱いて引き寄せた。
唯斗は天草に凭れさせられる形となり、目が点になる。


「…天草?」

「エーテルで構成される服装の一部ですので、触れていないと消えてしまいます。体温の維持という意味でも、接触を許してくださいますか?」

「そういうことな。悪いな、気を遣わせて」

「気まずい思いをさせているのは私ですし」


天草はいたずらっぽく笑ってから、突然、人差し指を空中でなぞるように動かした。途端に魔力が放たれて、洞窟が覆われる。


「結界…じゃないな、気配を絶ったのか?」

「よく分かりますね。その通り、気配を遮断するものです。あとついでに、通信音声も途絶えています」

「…、俺はまどろっこしいのは好きじゃない」


カルデア側に聞かれたくない話をするつもりのようだ。立香を送り届けたアキレウスが唯斗に合流しようと気配を探るだろうから、早く済ませたい。
唯斗が意図を理解していることに、天草はにっこりと微笑んだ。


「話が早くて助かります。単刀直入にお聞きしますが、唯斗さん、あなたは第三魔法をご存知ですか?」

「っ、お前、」


唯斗は体を起こして天草から離れようとしたが、肩を抱く天草の腕の力は強く、離れられない。仕方なく至近距離で見上げて睨みつけると、天草は苦笑する。


「順当な警戒です。ですが、何もここであなたに危害を加えるような真似はしません。あなたに何かしたところで、私にはメリットはありませんし、あなたにリスクを冒すほどの価値も感じていませんから」

「あんたをカルデアから強制退去させるのはどうやらメリットの方が大きそうだけどな」

「そんなに怒らないでください。さて、第三魔法はご存知のようですね。では本題です。私の、救済の話です」


そもそも、魔術と魔法は明確に区別される。すなわち、ある時点における魔術の領域を超えた実現不可能な事象や効果、それを魔法と呼ぶ。
遥か太古の昔には、火を起こすことは人類にできることではなく、魔法だった。それが魔力を使ってできるようになったことで魔術となり、道具を使ってできるようになったことで技術となった。
魔法が魔術に、魔術が技術に、そうして人類文明が進化していくごとに、地球から神秘は薄れていった。人の手の及ばない領域が遠ざかるほど、根源は遠ざかっていったのだ。これが神代から人の時代への転換である。

現代において、魔法は6つほどに体系化されている。たとえば瞬間移動は魔術でもできないため、魔法に該当する。
その中でも第三魔法は、魂の物質からの脱却を意味するものだ。

魂は体という肉の器を必要とする。魂というエネルギー体は、単体で存在することができないのだ。
しかしこれを肉体から解き放ち、エネルギー単体で存在できるようにする。これが第三魔法である。
これは同時に、生命の新たなステージへの進化を意味する。肉体の呪縛から放たれて、本来のエネルギーを発揮できるようになるわけだ。


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