戦いの在り方−4
「前の特異点で立香を裏切って大聖杯に手を出そうとしたのは、第三魔法を実現するためか」
「その通りです。いえ、あの時点でそれが叶うかは微妙でした。しかし私は確かに、過去の現界において、別の世界ではありますが、聖杯戦争による大聖杯の獲得を目指しました。7騎と7騎が衝突する、聖杯大戦です」
「合計14騎ってことか。イカれてるな」
「大義の有無だけで、人理修復とて同じことです。聖杯大戦においては、アキレウスやモードレッド、ケイローン、ジャック、アタランテ、ジャンヌ・ダルクもいました。他にもあなたがよく知る英霊が多くいましたよ。アキレウスが私を警戒するのも無理はありません」
天草の話では、冬木市の大聖杯を複製したものを巡って、ルーマニアを舞台に聖杯大戦という14騎とルーラーによる大規模な戦いがあったのだという。
「結局、戦いは私の負けでしたが…私は自分が間違っているとは思いませんし、これからもチャンスがあれば実現するべく動くでしょう」
「それがお前の在り方ってわけだ」
「そういうことです。あなたがよくご存知の通り、本来、天草四郎はルーラーになれるほどの存在ではありません。私という英霊は、ルール破りの末に奇跡的に発生した存在に過ぎないのです。だからこそ、私からこの救済という目的をなくせば英霊として成り立たない」
「…第三魔法による人類の救済、ってことか?」
「ええ。私は人類を救済したい。争いも欲望も、そうしたものすべてから解き放つことが、サーヴァント・天草四郎の目的です」
魂が肉体から解放されるということは、エネルギー体として完全になるということであり、それは神になるということとほぼ同義である。
生命としてより高次元の存在になれば、低次元な戦争、飢餓、欲望、そんなものからも解放される。これが第三魔法による人類の救済というものの本質だという。
唯斗にとっても第三魔法など大まかなことしか知らない眉唾物の存在だったが、こうして本当に実現しようとする者がいるとは、驚くとともに震撼する。
勝手に生命としての次元を高められたら堪ったものではない。
「…あの島原の乱を経て、あなたは、そこに行きついたのか」
「ええ。あの惨禍を経て、私が至った結論です」
この英霊があまりにいびつである理由がようやくわかった。
基本は天草四郎だが、英霊としての成り立ちがあまりに突拍子もない経緯だったがために、戦闘スタイルなども含めて違和感があったのだ。史実の彼から連想できない姿、と言っていい。
天草の行動原理は理解できた。どういう存在かも納得はした。問題はそこからだ。
「…で、俺にそれを話してどうするつもりだ?まさか共感してお前に聖杯を融通するようになるとでも?」
「いえ、人類の罪をそれも歴史として認め受け入れる姿勢のあなたと、それを認めず生命として次元を変えようという私とでは、人類に対するスタンスが異なります。共感は得られないと思っています。もちろん、聖杯はいただければありがたいですが」
「……じゃあ、何が目的だ。わざわざ俺にこんな話をして、なんの意味がある」
「大したことではないのです。ただ、あなたの意見が聞いてみたかった」
こんな場を設けた理由は何なのか、天草に聞いてみるとそんな答えが返ってきた。
再びその端正な顔を見上げてみると、天草は本当に他意なく、唯斗の考えが聞いてみたかったのだという。
「マスターや他の英霊から、もう一人のカルデアのマスターであるあなたがどんな人か聞いています。何より、一瞬とはいえ第七特異点でギルガメッシュ王のサーヴァントとなった身ですから、あの王があなたに向ける感情の大きさを垣間見て驚きました。そんなあなたなら、どう思うのだろう、と」
なるほどな、と唯斗はすんなり納得した。自分が特別な人間だとは思っていないが、カルデアでもう一人のマスターであることや、バビロニアで仕えた相手であるギルガメッシュから唯斗への言動などを見て関心が沸いた、というのは理にかなっている。
唯斗は少しだけ考える。第三魔法による救済、というのは、正直唯斗の常識や感性の範疇を超えており、意見も何もない。そんな次元の話ではないのだ。
天草とて、唯斗の考えを聞きたい、というのは参考にしたい、ということではない。単に興味本位でしかないもののため、大層なことを言う場面でもないだろう。
それならば、所詮はただの魔術師もどきでしかない自分の領分で話そうと思った。
「…俺は魔術は使えるけど魔術師じゃない。魔術の知識だって、平均的なもので、唯一召喚術に関することだけちょっと詳しいってレベルだ。だから、第三魔法がどうとかってことは、正直どうでもいい」
「なるほど?」
天草の言う「救済」そのものには意見しない姿勢をまず示す。天草も、これくらいは予想の範囲だろう。
唯斗は言葉をつづけた。