戦いの在り方−6


きょとんとした天草。一人称がぶれたのは、エミヤやマーリンと同じ心理だろうか。
意外とこういうところは人間っぽいというか、同世代の少年らしい。もちろん、死後の受肉してから生きた年月はまったく異なるようだが。


「英霊として存在が確立する目的や理由が何だろうと、本質は変わらない。なら、伝えたいことは一つだろ」

「…なんでしょう、思い当たるものがありません」


唯斗はようやく体を少しだけ離して、正面から天草の目を見据えた。まったく分からない、という表情の天草に、唯斗は思わず小さく笑ってしまった。


「ふは、簡単なことだよ」

「なんでしょうか」

「会えて嬉しい。故郷の偉人の一人であるあなたに、会えて良かった」

「っ、そう、ですか」


先ほど唯斗が述べた通り、長崎は近世以降、悲惨な歴史も辿った土地だ。特に信仰の自由という観点において、長崎を襲った二度の悲劇はあまりにもひどいものだった。
そんな長崎が経験した歴史に、人の醜さを感じずにはいられない。

それでも、そんな長崎を象徴する天草四郎が人類の救済を願っているという事実は、たとえそのプロセスが問題だらけだったとしても、単純に嬉しかった。

そしてもっとシンプルに、天草に会うことができて嬉しかったのだ。
第三魔法やら人類の救済やら、とんでもないことを多く抱える天草は、そうしたことに紛れてしまいがちだが、なんであれ、あの天草四郎時貞なのだから。

唯斗の言葉を聞いた天草は、ふっと破顔して、唯斗の頬をそっと撫でる。その瞳は柔らかく、優し気だった。


「…まったく。カルデアのマスターは、揃いも揃って…アキレウスやギルガメッシュ王が、あなたに肩入れするわけです。試すようなことをしてしまってすみません。私も、あなたと話せて良かった」

「でも、俺は立香より容赦ねぇからな。聖杯をくすねようとしたら強制退去させる」

「心配は無用です、正攻法でいきますから。まずは体から落とす形とかどうです?」

「ほう、レイシフト中にナンパとはやるなァ天草」


そこに、低く苛立ったような声が落ちてきた。
入り口に仁王立ちしているのはアキレウスだ。少し息を切らしているのは、気配を遮断した状態で唯斗を探すべく走り回ったからか。
そういえば結構長いこと話し込んでしまった。


「っ、悪いアキレウス!おい天草お前だいぶ時間経ってたの分かってたよな!?」

「すみません、あなたと話すのが楽しくてつい」

「心にもなさそうな笑顔しやがって…!」

「バレました?カルデアからのお説教、一緒に受けましょうね」

「この野郎…っ!」


アキレウスのこともそうだし、音声を届けていなかったカルデアにも心配させてしまったかもしれない。分かっていながら指摘しなかった天草は確信犯で、にっこりと反省の色のない笑みを浮かべていた。強かすぎる。
一方、アキレウスはずかずかと洞窟に入ってくると、カソックを天草に放ってから、唯斗を抱き上げた。


「うわ、」

「とっとと探索に出るぞマスター。そいつはルーラーだから、自分のマスターがいなくてももうしばらく現界できるだろ」


なぜかぶすっとしているアキレウスの腕に抱かれて洞窟の外に出る。雨はすっかり小康状態で、霧状になっていた。
天草も後ろをついてきて、3人で森の中に入っていく。

カルデアにもこちらの音声が届くようになったことで、すかさず『何してたのかな唯斗君?』とダ・ヴィンチのちょっと怒ったような声が聞こえてきた。


「…悪い、敵を警戒して天草に気配を遮断する術式をかけてもらってたら、音声も届いてなかった」

『そういうことか、まったく。いや無事なのは分かっていたけれど、状況が状況だ。気を付けたまえよ?』


唯斗は正直には言わず、部分的な説明に留めた。天草は片方の眉を上げる。
本当のことを言わないのだな、ということだろう。さすがに正直に言えば天草の立場が悪くなる。

代わりに唯斗は、アキレウスの腕に抱き上げられて視線が高くなっているのをいいことに、天草の額にデコピンをしてやった。
通信で声が聞こえないよう、何も言わずに舌だけべ、と出してやると、天草はやはり苦笑しながらも唯斗の頭をひとつ撫でた。


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