戦いの在り方−7
なぜかアキレウスの腕に抱かれたまま森の中を進んでいると、そろそろアキレウスの不機嫌さが気になってきた。この男がこうしたネガティブな様子を維持させていることは珍しい。すぐにからっと切り替えるタイプだからだ。
このままだと支障が出ると判断した唯斗は、直接、それを指摘することにする。アキレウスも単刀直入な方がいいだろう。
「…アキレウス、どうした?俺はあんま察するとか得意じゃないんだ」
アキレウスの右腕に腰掛けるような形で抱き上げられているため、その若草色の髪は視線の下にある。
この精悍な顔つきを見下ろす機会はそうなく、新鮮な気もするが、不機嫌そうなまま口を開いたアキレウスに意識を向ける。
「……やっぱ、日本人の方がいいのか」
「…え?」
「…くそ、忘れろ。今めちゃくちゃダセェこと言った」
ふい、と顔を背けるアキレウスに困惑していると、後ろをついてきていた天草がおかしそうに笑った。
「おや、嫉妬ですか?」
「ッてめぇ…!」
アキレウスは振り返って天草に殺気を飛ばすが、愉快そうな天草を見て興を削がれたのか、視線を前に戻す。
その顔は不機嫌さよりも、バツの悪さの方が出ていた。
「…あーそうだよ、嫉妬だよ。こんな胡散臭ェやつに気ィ許してるマスター見て、こんなんでも同郷の英霊ってだけで距離近づけんのかって思った。ただそれだけだ」
「そういう無邪気さもあなたの美徳ですが、それで己のマスターを困らせるのはサーヴァントとしていかがなものでしょう」
「天草はちょっと黙ってろ。アキレウス、悪い、やっと理解した」
恐らく天草のこれもフォローだ。困っている唯斗への助け舟として、アキレウスを煽ったのだろう。アキレウスもそれを理解したから、天草にあれ以上突っかからなかった。
その代わり、アキレウスが直截な言い方をしてくれたおかげで、唯斗もようやくその不機嫌さの理由を理解する。
さすがに少し気恥ずかしいが、この英霊も唯斗のことを少なからず好いてくれているのだと知っている。少なからず、と言うには結構とんでもないことをバレンタインのときに言われているが。
「天草はほら、胡散臭いけど分かりやすいから。損得勘定と目的に必要であればなんでもするタイプの、善のために悪も辞さないタイプのやべぇヤツだろ」
「言いますね」
「否めないだろが」
「否定はしていませんよ」
こういう軽口の応酬ができてるところも、親しそうに見える要因なのかもしれない。唯斗も、天草との会話はそれなりに心地よかった。複雑だが明瞭で分かりやすいからだ。
「そりゃ日本人として日本の英霊に会えるのは純粋に嬉しいけど、今まさに天下のアキレウスに担がれてんだぞ。これがどんなにすごいことか分からない俺じゃない」
「…、マスター」
「…やっとこっち見たな」
ようやくこちらを見上げたアキレウスの目線とかち合い、唯斗は安堵する。アキレウスも表情を緩めて、唯斗の目元を指で撫でた。
「…悪かった、さすがに大人げなかったな」
「あんまアキレウスから大人っぽさ感じたことないけどな」
「言いやがったな」
「どっちかと言うと、雄っぽさ?」
アキレウスの口から大人げないなんて言葉を聞くとは思わず、この場にケイローンがいたら失笑の一つでもしそうなものだ。
唯斗としては、大人というより成熟した雄っぽさを感じることならある、といった感じだ。
そしてそれを言うと、アキレウスはおもむろに立ち止まる。何かと思ったところに、天草がため息をついて黒鍵を出現させた。
「…アキレウス。さすがに特異点探索中に発情したら切り落としますよ」
「……今のはマスターが悪くねぇか?」
「同意しますが、それはそれ。第一、その人がそういう類の人間だと私よりも知っているでしょう」
「身を以てな。ったく、運がいいなァ、マスター。そろそろ俺の、わりと弱めの理性もギリギリだからな」
どうやらまたやってしまったらしい。明らかに色を灯したアキレウスの瞳に見据えられ、唯斗は慌ててその腕から降りた。アーサーがいたら確実に怒られていた。
『マスター、帰還したら話がある』
通信から聞こえてきた恋人の声に言葉が詰まる唯斗を見て、天草はまたおかしそうに笑った。