戦いの在り方−8
その後、しばらく森の中を歩きつつ、たまに現れた敵を倒していくと、カルデアから通信が入った。
『唯斗君、そこから北に3キロほど行ったところに鉄塔がある。その辺りに強いエネルギー反応だ。高圧電線の電力に紛れて観測しづらかったが、分離解析の結果、そこに異常がある』
「了解。よしアキレウス、カチ込むぞ」
「おう!」
アキレウスは木々の上空に宝具の戦車を出現させる。三頭馬が悠然と空中に留まり、小雨の曇天にあってもその威容を誇る。
「天草、戦車ごと突撃する」
「…なるほど、結構、脳筋ですね。まぁマスターもそうですが」
「一言余計なんだよお前は。アキレウス、振り落としてもいいぞ」
「事故ならしょうがねぇな?」
「このマスターにこのサーヴァントありですか」
そんな軽口を叩きつつ、アキレウスとともに足に強化をかけた唯斗も戦車へと跳躍する。天草もついてきて、三人乗りの戦車は定員となる。森の向こう、山の合間を縫うように建てられた高圧電線とその鉄塔が目的地だ。
アキレウスが掛け声とともに手綱を引けば、すぐに戦車は空中を走り始める。天草に支えられながら、唯斗は飛びすぎる木々の向こうを見つめる。
いったい鉄塔には何があるのか、と注視すると、どうやら崩れかけた木造の建物があるようだ。
勢いよく過ぎていく山間の深い森のすぐ先に目的地となる鉄塔と、その周囲のやや開けた空間に敵性体を視認してすぐ、唯斗は指示を出す。
「フェンスには突っ込まないようにしつつ敵集団に突っ込め!」
「了解!」
「天草は着地と同時に至近5メートル以内を掃討!」
「了解です」
二人の短い返答を聞いてすぐ、アキレウスの戦車は敵の軍団に突っ込んだ。ゾンビとソウルイーターを吹き飛ばして轢き殺し、天草はすぐに戦車を下りて近くの敵を日本刀で切り付けてから、黒鍵を投擲して周囲の敵個体を駆逐する。
この一瞬で10体ほどは倒せただろう。
『強力なゴースト反応!唯斗さんお気をつけて!』
そこに、通信でマシュが警告を発した。
その言葉通り、開けた空間の端にある、廃墟となって朽ち果てた瓦礫から巨大なゴーストが出現した。
見たところ、あの瓦礫は神社だったようだ。廃れたあと、この鉄塔が立てられたのだろう。
大方、あの神社を巡る霊的なものが、この鉄塔によってエネルギーを得て狂暴化したのだと考えられる。聖杯にも似た魔術リソース体が奉納される神社だったのかもしれない。
「結構まずいな…アキレウス、引き続き残りの敵を蹴散らせ。天草はゴーストを頼む」
「承知しました」
アキレウスは残りの敵を次々と槍で薙ぎ払っていく。一方、天草はゴーストに向かって魔力を籠めた黒鍵を投擲し、それが突き刺さった地面から黒いエネルギー光が発する。
その光によって、ゴーストは悲鳴を上げてもがく。一応聖職者の攻撃だからだろうか、なんて思ったが、それにしては禍々しい光だ。
しかし苦しむゴーストは依然として弱っている気配はなく、唐突にゾンビなどのザコを蹴散らすアキレウスに紫色の光を浴びせた。
「ぐ…ッ!」
「アキレウス!!」
その光によって、アキレウスは地面に縫い留められたように動けなくなってしまった。呪いによって身動きが取れないのだ。
それによって、ソウルイーターなどが好機とばかりに迫る。
一方、ゴーストは天草にも呪いの光線を立て続けに放ち、それを天草が避けたところで、その大きな手で天草の体を鷲掴みにした。
非常に知的な行動をとる個体だ。膂力の強さから、天草は青白い手に掴まれてこちらも身動きが取れなくなった。
もはや動けるのは唯斗のみである。
「マスター、いったん逃げろ…!」
アキレウスは苦しそうにしながらもなんとか唯斗にそう声をかけた。喋ることができるだけ、やはりとんでもない耐久力の英霊だ。
天草も、骨が軋むような力で掴まれているはずなのに、唯斗に迫ろうとするゾンビの何体かを、空中から出現させた黒鍵で貫く。
そんな天草をさらに握力で握りつぶそうとしながら、ゴーストはもう片方の手で唯斗に迫ろうとしていた。
「唯斗さんッ、一度、退却を…!そして増援を、」
確かにカルデアから新たにサーヴァントをレイシフトさせることも可能だ。小特異点はそういう融通が利く。
しかし唯斗は、残りの数とゴーストを見て、まだいけると判断した。いや、逃げる方がリスクがあると言ってもいい。
ふと、状況から第六特異点を思い出す。あのときも、アキレウスは唯斗に逃げろと言った。