戦いの在り方−9


唯斗はいったんアキレウスのすぐそばまで移動すると、結界によってゴーストからの追撃を防ぎつつ、アキレウスに接近するソウルイーターに次々とガンドを放って牽制する。さすがにこれでは倒せない。


「マスター…?!なんで、」

「アキレウス!俺を守ることだけ考えるな!」


なおも戦闘を続ける唯斗に、アキレウスは呻きつつなおも逃がそうとしたが、唯斗はそれに対して声を張り上げた。
同時に、ゾンビを3体ほど、足の関節を転移させて動けなくさせ、ソウルイーターを2体強めのガンドで吹き飛ばす。

いったん群れの敵性体から距離が生まれ、ゴーストも天草の必死の牽制でこちらへの追撃を緩める。漏れるようにこちらに飛んできた呪いの光を結界で弾いて、その光が粒子のように小雨の中に散っていくのを確認してから、唯斗はアキレウスのすぐ目の前まで移動する。

大柄な体の正面に立つと、その胸板に右手を置いた。やはり呪いの魔力が体内を蠢いているのが伝わってくる。これは、強制的に唯斗の魔力で弾き出すしかない。


唯斗は一度、アキレウスの顔を見上げた。金の瞳は、曇天でも曇ることはなくこちらを見つめた。


「いいかアキレウス、第一の使命は俺を守ることじゃない」

「マスター…?」

「二人で勝って、二人で守るんだ」

「ッ!」


息を飲んだアキレウスの目が見開かれる。
ゴーストが天草に意識を向けたのを見図らい、唯斗はアキレウスの胸板に置いた右手の甲に魔力を籠める。


「令呪を以て命じる。勝つぞ、俺のライダー」


その言葉と同時に、一画分の魔力がアキレウスの体を駆け巡り、呪いを弾き出す。瞬間的にアキレウスは体の自由を取り戻し、そしてそのままの勢いで、唯斗を抱き締めた。


「うお、」

「…もちろんだ、我がマスター」


低く言ったアキレウスは、すぐに体を離すと、目の前から一瞬で消えた。瞬間移動か何かと思うほどの速さで飛び出し、天草を握る腕を槍で切り裂き、さらにゴーストの頭に思い切り槍を叩き下ろす。
この一連の動きに、0.5秒とかかっていない。

気付けば天草は解放されており、こちらもすぐに立て直して攻撃に加わっていた。

ある程度攻撃を入れたところで、アキレウスはゴーストから残りのソウルイーターを狩る方に動きを変え、唯斗に向かおうとしていた敵性体を次々と地面に切り伏せる。
まさに圧倒的な強さだ。

そして最後に、天草がゴーストの周囲を取り囲むように黒鍵を突き刺し、それらから黒い光を出現させて檻のようにゴーストを閉じ込めて圧殺。広場からすべての敵性体が駆逐された。


『敵性反応、すべてロスト。お疲れ様です、唯斗さん』

『エネルギーの収束も確認。これでこの特異点の修復は完了だ。魔神柱に繋がる手がかりはなかったけれど、ひとまずよくやった。帰還準備に入るからそのままそこで待機するように』


マシュから討伐終了の報告と、ダ・ヴィンチから修復完了を告げられ、唯斗はほっと息をつく。

アキレウス、天草が唯斗のところへと戻ってきて、いつでも帰還できる状態になった。


「お疲れ様、二人とも。あとは帰還するだけだ」


唯斗が二人にも報告すると、おもむろにアキレウスは唯斗の腰を抱き寄せた。後ろからまるで羽交い締めにでもされるかのように抱き締められる。


「え、どうした」

「……さっきの、痺れたぜマスター」

「なんだそれ」


先ほどの令呪だろうか。首をかしげると、二人を見ていた天草も苦笑する。


「私も分かります。なるほど、名だたる英霊があなたに強い感情を寄せるわけです」

「本当かよ、さっきは俺に、手を出す価値がない、とか言ってたくせに」

「あぁ…失礼しました、撤回します」


息を吸うように嘘をつく目の前の男にジト目を向けた唯斗だったが、意外にも天草は優しく笑って訂正した。本心らしい。
いきなりそういう態度をとられるとこちらも動揺する。目をそらしてしまい、「別に、わざわざそんなん…」ともごもご言ってしまう。

天草はなおも柔らかく笑った。


「可愛いんですね、唯斗さんって」

「…は!?」

「…冗談、でもないですが、まあそれはいいです。それより、あなたはとても、誠実に私と向き合ってくれました。私の目的や考え、過去を知ってもなお。そして今しがた、アキレウスに対する言葉からも、英霊への敬意と信頼を臆せず伝えてくれる方だと分かりました。ですから、先ほどの非礼をお詫びさせてください」


唯斗の正面に立った天草は、まっすぐにこちらを見つめてそう言った。彼なりに、誠意を籠めて言葉を伝えようとしてくれている。
あの天草四郎にそう言われるとは、と感慨深い気持ちになったが、そこにアキレウスが低く威嚇するように唸る。


「てめぇはブラックリストの最上位にランク付けてやる」

「おや、己を顧みることもギリシア哲学にあったと記憶していますが」


途端に火花を散らした二人に、いろいろな気持ちも引っ込む。ため息をつきたくなったところで、レイシフトが始まった。


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