戦いの在り方−10


そうしてカルデアに帰還してからすぐ、アキレウスが受けた呪いを完全に排出するため、まず唯斗はアキレウスを医務室へと連れて行った。
天草は先に怪我から回復した立香に詫びようと立香の部屋に向かい、医務室にはサンソンとナイチンゲールが待ち構える。


「大丈夫、呪いを受けた臓器を摘出しましょう」

「なんでだよ!」


にっこりといつも通りバーサーカーするナイチンゲールだったが、今回はダ・ヴィンチも一緒だった。


「外科じゃないから大丈夫だよナイチンゲール。アキレウス、解呪の方法は二つある」


ダ・ヴィンチはタブレットを起動してアキレウスのカルテを開きつつ、唯斗とアキレウスを丸椅子に促す。
帰還したばかりのため労わろうとしてくれているようだが、二人とも立ったままダ・ヴィンチの言葉を待った。


「一つは、ベッドで眠る。解呪まではエーテルが入れ替わる期間を考えて、概ね2週間程度だろう」

「は!?2週間寝てろって!?無理ムリぜってー無理!」

「だろうね。もう一つの手段は、魔力供給だ。現地で唯斗君がやったように、唯斗君の魔力を摂取して強制的に排出する」

「えっ」


ポカンとするアキレウス。さらに、サンソンもガタっと音を立てた。動揺する男二人に、ダ・ヴィンチは呆れたようにした。


「ナニを考えてるか、天才じゃなくとも手に取るように分かるけれどもね?君らが考えているようなことじゃない。まぁ、一晩一緒にいれば十分だよ。近くにいるだけでいい。別に手っ取り早い方法を取ってもらっても構わないが、騎士王の聖剣の威力を身を以て味わうのは君だけにしてくれよ」


言うだけ言ってダ・ヴィンチは「ではね〜」と医務室を出て行った。
ナイチンゲールは興味をなくしたのか、立香の様子を見に医務室を同じくツカツカと後にする。

残されたサンソンは顔を赤くしてから咳払いをした。


「とりあえず、この後のことは理解しました。マスター、ベッドは僕が動かしておきます」

「わざわざここで寝るのか?」


純粋に尋ねるアキレウスのそんな質問に、サンソンは冷めた目を向けた。


「自分の部屋にマスターを連れ込んで手を出さない自信があると?」

「………了解」


両手を上げて降参ポーズを取ってから、アキレウスは近くのベッドにどかりと腰を下ろしてそのまま横になる。掛け布団やシーツなど構わない大仰な動作に、几帳面なサンソンはまたため息をついた。


「僕は、先ほどのレイシフトでのマスターが行った治癒術式の記録を取らなければならないので一度退室します。アキレウス、ここは人の出入りが多い場所だ。くれぐれも迷いを起こすないように」

「わぁーってるよ」


サンソンは最後にそう言って退室した。これで医務室には二人となる。
唯斗はアキレウスが横になったベッドの縁に腰掛けて、その額に指を滑らせた。やはり、汗がにじんでいる。


「…苦しいよな」

「あー…あんたには分かってるか……」

「一応マスターだしな」


見かけよりアキレウスが苦しいであろうことは、その状態を見て理解できていた。ダ・ヴィンチやサンソンもそれを推測しているから、あまり深くは言わずに二人にしたのだ。
アキレウスがいつまでも強がらないように、という配慮だろう。弱いところを人に見せようとしないアキレウスの性格を慮っている。

アキレウスは息をついて、苦し気に胸を上下させた。やはり、時間をかけずにとっとと解呪してやりたい。
ぐっと拳を握ってから、口を開こうとした、そのとき、アキレウスの人差し指が唯斗の唇に置かれた。


「だめだマスター。その一線、お前さんは超えたくないんだろう。騎士王は許すだろうが、俺が許さねぇ。こんな情けないことで手に入れたいモンじゃないんでな」

「ッ、でも、俺、他に何もしてやれない」


アキレウスは何も言わずとも唯斗の意図を理解しており、先回りしてそれを止めた。
経口摂取での魔力供給、早い話がキスによるものを提案しようとした唯斗を止めたアキレウスに、唯斗は視線を落とした。

しかしアキレウスはからりと笑う。


「やっぱ可愛いな、唯斗」

「へ、」


まさかこのタイミングで名前を呼ばれるとは思っていなかった。
こんな状況なのに顔に熱が上がる。アキレウスはそれを見て苦笑してから、おもむろに唯斗を強く引っ張った。
ベッドに引きずり込まれる形で、アキレウスの腕の中に納まる。腕枕の要領で、アキレウスに抱き締められていた。


「な…っ、」

「これくらいの接触でもだいぶ楽だ。医者の先生も騎士王も許してくれるだろう」

「アキレウス……」


急なことに身を固くしていた唯斗だったが、慣れた温もりであることもあって、力を抜いてその分厚い背中に少し手を回す。なるべく接触を増やそうとしてのことだったが、アキレウスは小さく笑った。


「俺が我慢できる範囲にしとけよ、マスター」

「…、俺にそういうのは、難しい」

「知ってる。ま、じゃあ寝るか。マスターも疲れてるだろ」


ぽんぽんと後頭部を撫でられて、これではどちらのためなんだろうか、と思ってしまう。
すると、アキレウスはもう眠りに落ちそうな声で、最後に言葉を発した。


「…あんたのサーヴァントで現界できて、良かったぜ、マスター。お前は、特別だ」

「アキレウス、」


頭上で寝息が聞こえ始める。
唯斗は言葉を返そうとしたが、健やかなそれに口を噤む。そして、起こさないようにそっと、その胸板に額をつけて、目を閉じた。


79/314
prev next
back
表紙へ戻る