深海電脳楽土SE.RA.PH−12


とりあえず礼拝堂に戻った唯斗とアーサーは、トリスタンたちと立香の帰りを待った。
そして1時間以上してからようやく、立香たちは礼拝堂へと戻ってきた。しかも、数が増えている。

一人は男性、管制室にいた所長・ベックマン。高圧的で嫌味な人物だった。

そしてもう一人は、パッションリップである。立香はどうやら、本当にパッションリップの救出に成功したようだ。


「マスター、」


もう一人、欠けることなく戻ってきたガウェインは、全身に傷を負いながら唯斗の前に駆け寄った。今は他に優先することが山とあるため、唯斗はため息をついて簡単に返す。


「話はあとだ。治癒術式かけてやるからそこに座れ。立香、背面の報告頼む」

「了解、あんまガウェインのこと怒らないであげてね。巨乳だからリップのこと助けたとか言ってたけど、怒らないでやって」

「………へぇ」

「マスター!誤解です!」


とりあえずガウェインを長椅子に座らせて、その体に手をかざして治癒をかけつつ、立香の話を聞いた。

立香たちは背面にて、鈴鹿御前などと交戦。その後再びブレストに戻り、なんとそこで魔神柱と戦った。少し様子がおかしかったとのことだが、こんなところで魔神柱と出くわすとは、やはりこの特異点は魔神柱がらみの案件だったらしい。

そしてベックマンと合流し、パッションリップをガウェインとともに解放、仲間にして連れてきた。メルトリリスの言葉通り、助けられた恩義を素直に示して、立香に付き従っている。
相変わらず、アルターエゴに対する嫌悪感を示すベックマンとマーブルだったが、戦力ということでとりあえず受け入れていた。

一通り情報の共有が済んだところで、ベックマンがリーダーぶって口を開く。


「さて、次はここからどうするかだ。戦闘要員としてマスターが二人いる上に、マスター・雨宮はカルデアからのサーヴァントを2騎連れているんだろう。それならば、そこのアーサー・ペンドラゴンを私の護衛とし、ガウェインを連れて探索に行くといい」


ベックマンにおもむろに言われたアーサーは一瞬ポカンとしてから、澄ました表情で答える。


「断る」

「は!?なぜだ!サーヴァントが人間に反発するというのか!?」

「私のマスターはこの人だけだ。他人の命令を聞く道理はない。そもそも、もはやここは油田基地セラフィックスではなく特異点SE.RA.PHだ。貴殿の裁量を超えている」


誰も言わなかったことをズバリと言ったアーサーは、普段と違って王としての圧を放っている。さすがのベックマンも言葉に詰まった。

とりあえずは一つ重要な話を済ませよう、と唯斗は話を引き継いだ。


「…それで立香、さっき礼拝堂の担当者の記録媒体を確認してたんだけど、まだ続きがありそうなんだ」

「あ、ほんと?じゃあ先に見てみるね」


立香も当然、唯斗の意図に気付いて、場の空気を払しょくすべく、前方の聖書台に置かれた記録装置の前へと向かう。
前と同じように起動しつつ、唯斗はガウェインの治癒をいったん終えて立香の隣へ移動する。何かあったときのためだ。

そうして再び、立香が閲覧した礼拝堂担当者・セラピストの記録。
そこには、セラフィックスを襲った出来事の真相に一つ近づく内容が記録されていた。

ブレストの管制室にいたという魔神柱はゼパルというそうで、ゴエティアにおいては序列第16位の悪魔として描かれ、女性の恋を燃え上がらせる、女性を不妊にする、人間の姿をその恋人が満足するまで変化させるなどの力があるとされる。

時間神殿を逃げ延びたゼパルは、このセラフィックスに目をつけ、セラピストを乗っ取った。そして、並行世界のセラピストと連動することで、その並行世界にいたBBを召喚した。
BBを召喚した目的は、その世界の月面にあるという「月の聖杯」という魔力炉を得るためだった。
そしてBBによってSE.RA.PHと化したこの電脳特異点において無数のサーヴァントを戦わせて死に至らしめ、その魔力によって演算リソースを回収していた。

文字通り次元の異なる話で、途方もない事態だ。しかし、BBというチート存在が発生した背景は納得できた。月面に魔力炉心を設けるほどだ、その並行世界は、少なくとも2017年のこの地球よりも、はるかに魔術・科学ともに進んでいるのだろう。


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