深海電脳楽土SE.RA.PH−14


ガウェインは唯斗の言葉に、それならば別のことで怒っているのだと理解しただろう。ではいったいなぜ、という顔をするガウェインに、唯斗は一歩前に進んで距離を詰めると、その鎖骨あたりに目元を置くように頭を凭れた。
驚く気配が頭上からする。黒いインナーを軽く掴んで目を閉じると、ガウェインがあわあわとしているのが分かる。


「…さっきも言った通り、俺は一緒に戦う覚悟をもってお前らと一緒にいる。ただ、もちろん、その戦うってのは、一緒に武器を取って戦うってことじゃない。実際にはサーヴァントたちに守ってもらってるし、ガウェインも騎士として、俺を守ることをいつも考えてくれると思う」

「ええ、それはもちろん。あなたのお覚悟もよく存じております。それに反する行為を先ほどしてしまったと自戒しておりますが…」

「それはさっき言った通りだ、戦うことも守ることも形はいろいろだろ。いろいろあるからこそ…」


唯斗はそこまで言って、ぐりぐりとガウェインの肩口に顔を押し付ける。


「…俺の命はもちろんだけど。できれば、心まで守ろうとしてくれ…たとえカルデアに戻るだけであっても、やっぱり死なれるのは嫌だ。ガウェインが死んだら、苦しい。だから…」


カルデアから一緒にレイシフトしたサーヴァントであっても、恐らく特異点で死んだとてカルデアに戻るだけだろう。戻れなくとも、登録された霊基から再召喚もできる。
しかしそうであっても、死は死だ。守ることにも様々な形があって、心を守ることもきっとその範疇だ。だから、守ると言うのなら、心まで守って欲しい、それが一番言いたかったことだった。

唯斗の言葉を聞き届けたガウェインは、そっと唯斗を抱き締める。太い腕に抱き込まれ、顔を離してその精悍な顔を見上げると、ガウェインは表情を緩めた。


「…やはりあなたは、誠実でお優しいお方だ。あなたが怒っておられたのは、私たちサーヴァントへの思い故、だったのですね」

「もともと、そこまで怒ってたわけじゃないけどな。不安だったし、心配だった」

「ええ、心得ております。そしてもう一度、改めて謝罪を。このガウェイン、次はあなたの優しいお心を煩わせることのない勝利をお約束します」

「…ん、一緒に勝とうな」

「っ、ええ。もちろん」


ガウェインもこちらのことを理解してくれたため、唯斗は体を離す。そろそろアーサーの我慢の限界だろう。
案の定、離れるとすぐにアーサーは唯斗の目元に触れた。どこかしらに触れていたがるアーサーの癖だと、最近理解した。


「君は意外と、心を許すと距離がゼロになっても気にしないから、ガウェイン卿は大丈夫だと分かっていてもヤキモキとしてしまうね」

「申し訳ありません、我が王」

「いや、今のは致し方ないさ。抱き締める以上のことをしない方が難しい、さすがはガウェイン卿だ。むしろ、抱き締め返すくらいの甲斐性はないのかと言っていたかもしれない」

「いやどんな会話だ」


唯斗は呆れて、個室に設けられたベッドに腰を下ろす。話はこれで終わりだ。
次はコアの探索という重要な局面となる、ここでしっかりと休んでおく必要があるだろう。


「ではいつも通り、僕はここで待機していよう。ガウェイン卿はどうするんだい?」

「…それでは、私は1階にて待機しています。また6時間後に」


そう言ってガウェインは部屋を出て階下に戻っていった。

もうすでに、レイシフトからかなりの時間が経過している。セラフィックスがどこまでマリアナ海溝を進んでいるのかざっくりとしか分からないが、もう脱出することも不可能な深海だ。
この特異点を早急に修復しなければ、唯斗たちもまた、命はない。


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