深海電脳楽土SE.RA.PH−15
アーサーに見守られながら眠りについて、3時間ほどしたときだった。扉がノックされた音で目を覚ました唯斗は、まずアーサーの姿を確認する。
アーサーも唯斗が起きたのを確かめてから、代わりに返答した。
「誰かな」
「私、マーブルです。雨宮君、起きてるかしら」
「…、今起きた」
少し掠れた声で返答してから、ベッドを出て立ち上がる。いったい何の用だろう。
アーサーも怪訝にしており、消していた防具を出現させる。
「寝てるところごめんなさい。実は、正面玄関から変な物音がするの。ガウェインさんと三人で確認してもらえないかな」
「分かった、今行く」
「私も下で待ってるね」
マーブルが扉から離れていったのを気配で確認したらしいアーサーは、小声で唯斗に囁く。
「…怪しいな」
「マーブルが?…まぁ、アーサーが言うなら信じる。警戒しようか」
善良な天然女子、といった感じの風貌の女性だ。どこかアーサーは苦手意識を持っているようだったが、唯斗はアーサーの方を信じようと思った。
休ませていた魔術回路を開けば、魔力が巡って目も冴える。アーサーとともに扉を開けて、アーサーが前を歩く形で階段を下りた。
1階のホールに出ると、マーブルとガウェインが扉の前にいた。
「マスター、王まで…お二人も呼んでいたのですか、レディ」
「敵襲だったら、マスターがいた方がいいかと思って。藤丸君は戦い続きだったんでしょう?声かけるなら雨宮君かなって」
「それは、そうですが…」
釈然としなさそうなガウェイン。アーサーと唯斗と三人で並んで、正面玄関である大扉の前に立つ。特に物音などはしない。
特に何かの気配も、サーヴァントの魔力反応もないため、もう少し詳しく聞こうとした、そのときだった。
突然、本当に突然だった。なんの前触れも予兆もなく、突如としてエネルギーが放たれた。
振り返った瞬間、頬に温かい液体が付着する。
そこには、右腕をなくしたアーサーと、上半身から血を噴き出しながら倒れるガウェインの姿があった。
「…ッ!!」
咄嗟に、唯斗は結界を大量に出現させ、一瞬の猶予を作る。すぐにその結界にも連続して打撃が放たれた。
「
鉄の人よ、天より来たれ…!」
上級の結界術式を展開してから、膝をつくアーサーと倒れるガウェインの状態を確認する。
「っ、アーサー!ガウェイン!大丈夫か!?」
アーサーは右腕の肩から先を丸ごと失っており、どうやら聖剣を出現させるその一瞬で腕を飛ばされたらしい。見えない剣はすぐ近くに落ちており、それをアーサーは呻きながら左手で拾っていた。
一方、ガウェインは上半身を切りつけられたのか、大量の血を長椅子の合間に溢れさせて倒れている。こちらは、唯斗を咄嗟に庇ったのだと分かる。
「マスター、すぐに逃げなさい」
アーサーは有無を言わさない口調で言った。右肩からどくどくと血が流れ続けており、ふらつきながら立ち上がる。
いったい、何が起きているのか。たった一瞬で、しかも殺気を一切気取らせず、この二人をここまで追い詰めたのは何者なのか。
気配がないマーブルはいったいどうしたのか。まさか、マーブルがこれをやったのか。
頭をぐるぐるとめぐる情報を、唯斗はいったんすべてシャットアウトした。
この状況は、三人全員の命が危機に瀕しているというものにほかならないのだから。
「…バカ言え、逃げられるか。立香も含めて全滅する」
「結界がもたない、早く」
しかしアーサーは食い下がる。その言葉通り、結界はもう崩壊する寸前だ。ここまで戦って一切加勢がないのは、この空間で起きている出来事を誰も感知できないほど、精密に音や魔力、衝撃波が封じられているからだろう。すぐの助けはとても期待できない。
あまりにも一瞬で窮地に立たされていることで思考もままならなかったが、やるべきことはシンプルだ。
この状況を離脱する、それしかない。
しかしその前に、結界の中に別の存在が出現した。
「はいはーい!突然のピンチに思考停止寸前の哀れな人間こと唯斗さーん!頼れるAI、BBちゃんですよー!」