深海電脳楽土SE.RA.PH−17
ガウェインが消失し、教室に残されたのは唯斗とアーサーだけとなった。
唯斗はすぐにアーサーのところに戻ると、ゼエゼエと呼吸を荒くして大きく動く胸元に右手を当てた。
「アーサー、これから令呪で魔力を送る。一瞬で右腕は再生されるだろうけど、その一瞬、多分、めちゃくちゃ痛い」
「…あぁ、分かっているとも……くっ、ふッ、大丈夫、頼む」
右腕を失った激痛に堪えながら、唯斗がガウェインを見送る時間を作ってくれたアーサー。まだ痛みを与えることが心苦しいが、この一瞬だけ耐えてもらえれば楽になる。
「…令呪を以て命ずる。少し休んでくれ」
そう言った瞬間、右手から大量の魔力がアーサーに送られ、その一瞬で右腕に魔力が供給されて再生される。
「ぐゥ……ッ!!」
一際大きくアーサーは呻き、呼吸が止まる。さすがに魔力が足りず、霊衣までは回復しなかったため、再生された右腕は素肌が晒されている状態だ。
そこで、素早く唯斗はアーサーの顎に手を添えると、その口元に自分の唇を重ねた。
自分からこんなことをするのは当然初めてだが、アーサーの唇の間から舌を差し込んで、経口摂取による魔力供給を行う。
すると、アーサーは目を見開いてから、おもむろに唯斗の両肩を掴んだ。痛みの走るような強さに驚くと、アーサーはそのまま、唯斗の背中を抱き込んで後頭部を鷲掴みにし、より深く口づけてきた。
「んぅ…ッ!」
思わず声が漏れるが、アーサーは気にせず、貪るように唯斗の咥内に舌をねじ込み、唯斗の舌を絡め取って吸い込む。舌の根元が引っ張られる感覚は快感を生むが、同時に唾液を通して魔力も吸い取られていく。
呼吸が苦しくなったところでアーサーは口を離したが、それでも息は荒かった。
「は…ッ、はっ、ふッ、」
「アーサー、」
その翡翠の瞳は飢えた獣のように鋭く、その眼光にぞくりと背筋が震える。恐怖ではない。食われる、という期待にも似た感覚だ。
しかしそれ以上に、唯斗はこの男がそこまで追い詰められていることへの心配が勝った。最低限の魔力供給はできている、今は休ませる方が先決だ。
「アーサー、休め。しばらくBBもいないし、寝てていい」
「…っ、しかし、」
「いいから。この状態で会敵する方がまずい。早く体勢を整えるんだ。いいな」
「……、わかった」
唯斗の正論に、アーサーは苦しそうにしながら頷いた。自分しか唯斗を守れる者がいない状態で無防備になることを懸念しているようだが、唯斗の言うことも尤もであるため、唯斗の指示に従うことにしたようだった。
唯斗はそれを確認してから、教室の窓枠の下、壁に凭れると、左足を伸ばしてその太ももを叩く。
「ほら、ここ頭乗っけていいから、横になれ」
「……膝枕………」
「この期に及んでそこに反応してんなアホ」
アーサーの言うとおり、これはいわゆる膝枕というヤツだ。
しかし、体の一部を触れさせつつ楽な体勢を取らせるには合理的だと判断してのことであるため、あまり恋人らしい理由ではない。
アーサーもそれを理解して、少し躊躇いつつも、その金髪の頭を唯斗の左足の大腿部に乗せた。
右腕を上にするため、唯斗から見て左側に横になり、左足に頭を乗せて、こちらに顔を向ける形になる。
それにしても、自分の足をアーサーが枕にして寝ている、という状況は初めてのことで、これだけ至近距離で見下ろすこともそうない。
唯斗は右足を立てて右腕をその膝の上に置きつつ、左足は伸ばしてアーサーの枕としている体勢のまま、左手でそっとアーサーの金髪に触れる。
唯斗の腹に顔を向けていたアーサーは、こちらを不思議そうに見上げた。
「…どうかしたかい?」
「いや…なんか、ちょっと可愛いかも」
「君だってこの期に及んで何を言っているんだ…」
「ふは、そうだな。ほら、早く寝ろ」
「…、ちゃんと何かあったら起こすんだよ」
「分かってる」
アーサーの髪を梳くように撫でていると、アーサーはそれが心地よかったのか、すぐにその瞼を閉じた。そのまま眠りについた端正な顔は、寝ていても損なわれない美しさで、あの騎士王が自分の膝枕で眠りに落ちるとは、と変な感覚になった。