深海電脳楽土SE.RA.PH−18



「あらあら、見せつけてくれますね〜」

「…BBか」


しばらくそうしてアーサーを休ませていると、突然、そんな軽薄な声が教室に落ちた。
なんの前触れもなく現れたBBに、特に感慨もなく見上げる。
BBはそれを見てつまらなさそうにしつつため息をついた。


「ほんと、センパイと違って唯斗さんは面白味がないですねー。甘い恋模様なんて反吐が出るもの見せつけられたら殺してやろうかと思っていましたが、そんなこともなく。堅実で必要なことを必要な分だけ行うなんて、あなた本当に高校生ですか?」

「これでも人間味が出てきた方らしいけどな。それで?さっき俺たちを襲撃したマーブルの正体は?魔神柱を利用してこちらの世界に干渉を図った、そっちの世界の存在だろ。迷惑料くらいは払ってもらわねぇと割りに合わない」

「…なるほど。そこまでは推測ができているわけですね。及第点を差し上げましょう。本来、この私が矮小な人類ごときに説明をして差し上げるなんてことはあり得ませんが、そうしないと話が進みませんので、少しは説明してあげましょう。迷惑料、というのも言い得て妙ですし?」


ニヤリとしたBBは、意外にも素直に説明を始めてくれた。どうやらBBにとっても、ある程度唯斗の情報が更新される必要があるようだ。そうでなければ、こちらのメリットにしかならないことをBBがするわけがない。


「私たちがいた世界は2030年代でした。月は地球の事象を記録・管理するムーンセル・オートマトン、いわゆる月の聖杯と呼ばれる巨大な聖杯で構成されていて、それを管理する人工知能として私が存在しました」


BBが語る内容は、もはや驚くこともないほどに突拍子もない話だった。

月には、実は古代のオーパーツであるムーンセルという聖杯が存在し、月という天体のほとんどがムーンセルでできている。ムーンセルは地球の事象を記録し続けており、その管理AIとしてBBが存在する。
しかしBBはバグのような存在となってしまい、ムーンセルを掌握しようと128騎のサーヴァントを聖杯戦争で争わせて取り込み力をつけ、このようなチート存在となった。
その過程で、不要なものとして切り捨てた感情という成分で構成されるものがアルターエゴである。


「しかし私たちは敗北しました。その相手が殺生院キアラ。こちらの世界では、セラフィックスのセラピストとして勤務していた女です」


セラピストであった殺生院キアラはBBたちの世界にも存在し、月の聖杯戦争で戦ったマスターの一人だった。
しかしその目的は、BBたちすら取り込んでムーンセルと接続し、月と一体化することで己の性欲を満たすというとんでもないものだった。


「……性欲?」

「ええ。理解できないでしょうが、それが正常です。アレは完全に破綻しています。私が言うのもなんですがね。キアラはそのために神になった。あの女は、自分以外の生命を使って己の性欲を満たすためだけに神になろうとしたのです。神になることすらも、キアラにとってはただのツールに過ぎなかった」


キアラはそうして、BBやアルターエゴを取り込んでムーンセルに接続しようとしたが、寸前でそれを妨害されたという。

魔神柱ゼパルは、この世界のキアラを通してBBたちの世界のキアラと接続することで、月の聖杯の力を手に入れて人類を情報として管理しようとしていた。ゼパルは、単に人類を情報として管理する知的好奇心だけで動いていたのだ。
人類を滅ぼすつもりなどまったくなかったゼパルだったが、キアラは並行世界の自分を知ったことで、己の目的を果たす方法をも知ってしまった。


「この世界のキアラは、もともとは私たちの世界のキアラのような人物にはならないはずでした。しかし、ゼパルによって二つの影響を受けたのです。一つは時間神殿での戦い。この戦いにおいて、魔神柱は総体として無数の英霊たちに殺され続けていたそうですね。キアラはそれを、性的に羨ましいと感じたのです」

「……、…?」

「ぷふ、そのアホ面サイコーですね!しかし私にとっても吐き気を催す邪悪ぶりです。キアラはゼパルに取り憑かれたことで、時間神殿の再現を望んだ。そして同時に、並行世界の自分が月と一体化することで性欲を満たそうとしていたことも、聖杯戦争によってサーヴァントたちのエネルギーを吸収する方法でそれを実現できることも知りました。そのために、まずゼパルに帰順するフリをして、ゼパルによるSE.RA.PHの構築を助けました」


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