人智統合真国シン−14


異聞帯に来てから5日目の夜、丸一日をこの施設で過ごしたところで、突然、施設がぐらりと揺れて爆発音が轟いた。
立香たちが到着してくれたらしい。正面からの攻撃は陽動に違いない。恐らくはアサシンが気配遮断によって救出に来るはずだ。

その読みは当たっており、唯斗の独房も外側から鍵が開け放たれた。


「待たせた」

「荊軻か、ありがとう」


荊軻はすでに、衰弱したゴルドルフ用のブドウ糖液なども確保してからこちらに来てくれたらしく、唯斗が出たときにはホームズたちも通路に出ていた。
ホームズとダ・ヴィンチが唯斗のところへ来る前に、荊軻が開けた隣の独房からアーサーが出てくる。


「マスター、怪我はないね?」

「大丈夫だ。それよりも…」


アーサーはすかさず唯斗の体を気遣うが、振動を続ける施設を考えると、早くここを出た方がいい。
それにあたって、唯斗はホームズたちを見遣る。


「コヤンスカヤはどうする?」

「当然、救出するとも」


にこやかに言ったホームズがそれ以上を語る必要はない。コヤンスカヤは極めて屈辱といった感じでぶすくれていた。


「コヤンスカヤ、分かっていると思うが交換条件だ。解毒薬を提供する代わりに君を解放する」

「………いいでしょう。私も業腹ですが」


コヤンスカヤは応じたため、唯斗は視界に強化をかけて結界を確認する。当然、この世界には魔術師などいないため、魔術師によってこじ開けられることが想定されていない。


「よし、ぶっ壊す」

「おや、唯斗君は解除までできるのかい?」

「普通の魔術だと厳しい。でもこれは、仙術を応用した科学技術に近いものだ。魔術師によって解除されることが想定されてないから、大量に魔力を流せば破綻する」

「前半は頭良さそうなのに最後は脳筋…」


荊軻が何か言ったが、唯斗は気にせず扉の仙術結界に左手をかざし大量の魔力を流し込む。途端にバチッと火花が散り、術式は破綻して扉が開いた。
中からあからさまに不機嫌なコヤンスカヤが出てきたところで、全員急いで上階へと走り出す。早く立香たちに合流して、この収容所を撤収しないと、咸陽から「天罰」で狙撃されてしまいかねない。

そうして地上階に出ると、月明かりの下、立香たちが戦闘を終えてこちらに向かってくるのが見えた。
立香とマシュのほか、陳宮と謎の馬がいた。


「唯斗!みんな!良かった、無事だったんだね」


立香はほっとしたように出迎えてくれた。これであとは脱出だけだ。あの馬の正体が気になるところだが、今は一刻も早くここを離れることが先決だ。


「ありがとうミスター藤丸、こちらもコヤンスカヤを解毒薬の供出を引き換えに救出した。すぐにここを離れよう」

「させぬわ。そこまで甘く見てもらっては困る」


ホームズは端的に立香に状況を説明してから脱出を急ごうとするが、そこに、立ち塞がるように一斉に兵士たちが現れる。その陣頭にいるのは当然、蘭陵王だ。


「すでに所外の布陣は済ませた。貴様たちには今度こそ引導を渡してくれよう」


陳宮はすぐに状況を理解すると、立香に警告する。


「主よ、ご注意召されよ。敵将はこちらが合流するのを待って包囲の陣を敷いてきました。必勝の機があってのことかと」


どうやら陳宮はカルデアの英霊ではなく、霊基グラフがこの地に呼び出した英霊らしい。
モードレッドたちの姿が見えないこともそうだが、事が済んだら立香たちの状況も確認しなければならない。


「…仕方在りません、私も人肌脱ぐとしましょう。NFFサービスの新商品、とくとご覧あれ」


敵の手数が多い様子に、コヤンスカヤも助太刀してくれるらしい。髪の毛を数本引き抜くと、それを空中に放る。同時に、1本1本が巨人やクリチャーチなどの魔獣に変化した。髪の毛だけで召喚のように生き物を出現させたのだ。


「な…っ、こんな権能、」

「はーい詮索してる場合じゃないですわ」


コヤンスカヤはたしなめるように、驚く唯斗を制する。それは実際その通りで、兵士たちが魔獣に分断されていても、蘭陵王とその本隊はこちらに突撃してきていた。
それにしても、本来は生命の転移や召喚というのはそんな簡単にできることではない。英霊召喚ですら、世界をかけた決戦術式の劣化版なのだ。

これは一種の権能、ティアマトのようなものである。

そこに疑問を抱いたものの、恐らくこれは詮索すると本気でコヤンスカヤに消されるであろう気配がするため、それ以上は口にするのはやめておいた。


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