人智統合真国シン−17
異聞帯突入から6日目、モードレッドや哪吒とも合流して、一行はついに関中へと至った。
道中で聞いた話によると、立香たちはボーダーが奪われたあと、天罰として迫る咸陽の砲撃に対して、スパルタクスがその身を犠牲にすることでそれを退けたそうだ。
それを見て人々は奮起し、苦難を逃れて勇気を出して生まれ育った村を後にした。初めて、この異聞帯に明日への希望と願いを抱いた人々が現れたのである
これによって英霊の座との接続に成功し、陳宮と赤兎馬が召喚された。
モードレッドと哪吒は村人たちを始皇帝の目から逃れるために野山を通って避難させ、ようやく咸陽近郊で合流できたというわけだ。
しかし今度は荊軻が暗殺のために先に咸陽市内に入ることになり、ゴルドルフが迷彩結果の装置を壊してしまったこともあり、始皇帝に見つかったカルデア一同はなし崩しに咸陽へと突撃。
そして7日目の今日、いよいよ咸陽の城門の前に到達した。
「これが咸陽…人の暮らす都市、なんでしょうか」
マシュは中華風の門を前に呆然とする。
その門の上部からは、巨大な金属製の砲塔が何本も聳えており、これが運搬ロケットとして全世界への下賜をまかなっているようだった。
城門の向こうにある市街地は、空中に浮かぶ始皇帝の体の影になっているため日が差さず、その明かりが始皇帝の体の下部に反射している。
ホームズもそんな都市の光景に首をかしげた。
「中心のスタジアムのようなものが中枢のようだが…とても居住用には見えないな」
「…まぁ、中に踏み込んでその目で確かめるのがよろしいかと。この異聞帯の文化というものが一目で分かるでしょう」
コヤンスカヤは読めない表情でそう告げた。確かに入った方が速そうだ。
しかし、城門からは迎撃のためだろう、人間の兵士たちが一斉に現れた。コヤンスカヤは軽い調子で解説する。
「あれは咸陽皇室親衛隊。泰平の世にあって驪山に眠ることなく皇帝の護衛を行う精鋭ですわ」
出てきた親衛隊たちは、確かに人間でありながらとてつもない魔力を纏っていた。一人一人が、シャドウサーヴァントくらいには匹敵するだろう。
数はおよそ50人程度だ。ならば、とっとと一掃して市内に突入した方が敵側に対する牽制にもなる。
「ギルガメッシュ」
「早速の呼び出しとはな」
唯斗はキャスター・ギルガメッシュを呼び出した。ギルガメッシュは咸陽を見て眉をひそめる。人間の人間らしさを重視するこの王から見れば、この異聞帯は吐き気がすることだろう。
「ギルガメッシュ、咸陽VSウルク、古代都市最強決定戦だ」
「よかろう。紀元前2000年紀の力を見せてやる」
そう言うと、ギルガメッシュは親衛隊の頭上に大量のゲートを開いた。黄金のさざ波が出現し、そしてそこから魔杖が現れる。
直後、雷撃のように大量の魔力光線が放たれ、親衛隊の兵士全員を気絶させた。衝撃波で城門の扉の蝶番が外れて、金属の扉が倒れる轟音が響き渡る。
「フン、殷ならまだしも秦では話にならんわ」
風に乗って煙が流れていき、50人の兵士が倒れ伏す道の先に倒れた城門が見えてきた。問題なく通行できるだろう。
「ありがとう、ギルガメッシュ」
「うむ」
ギルガメッシュは頷いて消失する。コヤンスカヤはドン引きしていた。
そうして難なく市内に入ると、そこは常夜の機械的な都市空間が広がっていた。
空は始皇帝の体によって覆われているため日の光は差し込まず、陰鬱な都市はただ建物を機械的に詰め込んだだけの壁のような街並みだった。
その建物内部では、多くの人々が詩を吟じて歌を歌い、絵を描いて彫刻を彫っている。どうやら芸術家しかいないようだが、聞いていると、すべて始皇帝を礼賛するためのものだった。
コヤンスカヤが言っていたのはこういうことだったようだ。
この世界において「人」とは始皇帝のみ、自然、「人を楽しませるもの」である芸術は始皇帝のためだけに捧げられるのである。