人智統合真国シン−18
市内では、まず秦良玉との戦いを行った。
智を奪い民の悪性を封じることで戦を防ぐ、そんな国の在り方を、幾千の犠牲の末に勝ち取ったこの人類史こそが正義だと叫びながら倒れていった姿に、立香は唇を噛みしめていた。
そのまま市街地を進み、咸陽中心部の技術庁でシャドウ・ボーダーの格納された倉庫に到着した。
広大な倉庫は体育館のような構造で、吹き抜けた2階部分はボーダーを見下ろすように空間を取り囲む艦橋のようになっていた。見下ろすとボーダーは無事にその姿を留めており、ダ・ヴィンチは「余ったネジ」の箱にキレながらも、まずはボーダーを走らせようとする。
しかしそこに、別の声がかけられた。
「…へぇ。どんな化け物染みた益荒男の群れかと思いきや、これがカルデアとは驚きだ。ただのガキと小娘と青瓢箪の寄り合いとはな」
「あら韓信さん、お久しぶりですこと」
同じくボーダーを見下ろす吹き抜けの2階、反対側に現れたのは小太りの男だった。
コヤンスカヤは彼を「韓信」と呼んだ。漢の三傑と称される名将だ。
「国士無双」「背水の陣」など韓信に纏わる逸話は多く、垓下の戦いで項羽を追い詰めたのも韓信の策だ。劉邦が、ちょうど安康や十堰を中心とする漢中に封じられた際にその指揮下に入り、徐々にその頭角を表して名将となった。
なお、その後漢中は「漢」という国号の元となり、さらには漢民族、漢字など中国を意味する漢そのものとなる。
ホームズはビッグネームの登場に警戒を強める。
「なるほど、異聞帯では秦の武将だったのか」
「もう秦の武将じゃねぇよ。ついさっき任を解かれた。だからもう戦う理由はない…なーんて、『理由』なんざどうでもいい。こちとらただ戦争がしてぇだけ。戦争のための戦争だ」
韓信がバーサーカー思考なのは不自然ではない。そういうものだというのは、彼のあまりにアウトローな逸話の数々を考えれば違和感はなかった。
そこに、ぞろぞろと倉庫内のあちこちから親衛隊の兵士たちが現れた。ざっと数百人単位でいることだろう。2階だけでなく、1階のボーダーの周囲や3階の通路にもいる。
さらに、韓信の後ろから黒い丸眼鏡の老人も現れた。
「お、衛士長じゃねぇか。あんたも来たのか」
「陛下より見届けよと」
「そうか」
あれは李書文の老人の方の姿だ。サーヴァントではなく、衛士長という役職についているようだ。親衛隊の隊長のようなものだろう。
この数と、一騎当千の武闘家が相手ではかなり不利だ。まともに戦っていれば時間のロスになる。
「…ダ・ヴィンチ、時間を稼ぐからボーダーに乗り込んで先に宝物殿に行ってくれ」
「ちょ、唯斗!?」
「今は一時召喚もできる。それに、スタッフを守りながらこの数相手にする方が苦しい」
これまでと違い、カルデアスタッフ8名という非戦闘員も伴っているのだ。広範囲戦闘を行うには、スタッフを守りボーダーを傷つけない、という条件はさらに不利になる。
「ガウェイン、エミヤ、ディルムッド」
呼び出せば、すぐに3騎が現れる。アーサーと入れて4人でこの軍勢を相手取ってもらうのだ。
「立香、ボーダーまでは任せた」
「…うん、了解。気をつけて」
「おう」
立香も応じてくれたところで、唯斗は号令をかけた。
「アーサーは右翼、ディルムッドは左翼から切り込め!ガウェインは1階へ!エミヤは俺の傍から射撃と近距離攻撃!」
その言葉を合図に、一斉に動き出した。
サーヴァントはそれぞれ応じて走り出し、アーサーは右側の兵士たちを、ディルムッドは左側の兵士たちを一挙に切りつけていく。
エミヤは唯斗に接近する者を、時に弓で剣を放ち、時に剣を構えて直接切りつける。
ガウェインは1階に降りてボーダー周辺の敵を掃討し、立香たちもスタッフを守りながらボーダーに向かって2階から飛び降りる。スタッフたちはモードレッドやマシュ、ホームズが抱えて行き、モードレッドは着地するなりガウェインとともに敵を次々と切りつけ始めた。
すぐに階下からはボーダーの起動音が聞こえてくる。