人智統合真国シン−21


玉座の間に降り立つと、まるでスーパーカミオカンデのような球状の空間が半壊していることが分かった。
その中心で、立香たちが立っている。すでに項羽はボロボロになっており、虞美人が何をするでもなく寄り添っていた。
アキレウスをいったん戻してから、唯斗はアーサーとともにボーダーへと合流する。


「立香!」

「唯斗、よかった!」


立香たちも怪我はない様子だ。コヤンスカヤの姿はないが、他は欠けていない。
荊軻は暗殺そのものには失敗してしまったのだろうが、そもそも荊軻がいなければもっと早くに始皇帝によってカルデアは殲滅されてしまっていたかもしれない。


「これで役者は揃ったな。汎人類史よ、カルデアよ」


そこに、始皇帝の声が響いてきた。しかし今回は天からではない。玉座の間を進んだ先、橋が繋がった球状の空間の中心にある東屋のような場所からだ。


「これよりそなたらと朕が競うのは、人としての正しき在り方。人類史の進むべき方向性だ。確かに我が秦は剪定事象とやらだったのだろう。この馬鹿げた空想樹を見れば分かる。しかし、編纂事象を進んでおきながら、容易に存在証明を否定されおった汎人類史の愚昧さもまた看過できぬ!人理は人が繋がなければならぬ。この先の編纂事象の座を得るべきは、より強く、優れたる人でなければならぬ!」


始皇帝は、人理の本質を理解している。人でなくなってしまった雷帝や女神であるスカディとは違う、人の王として人の紡ぐべき人理の重要性を理解していたのだ。

阿房宮の中心から出てきたのは、長く青白く輝くような髪と、あまりに優雅な立ち姿、誰をも圧倒する気品と王威。


「即ち、朕である!!!」


なんと、始皇帝は人の姿を取ることができたらしい。原理はよく分からなかったが、人の姿で出てくる気になったのは、荊軻とのやりとりによるらしい。
曰く、人の在り方を決めるのは、人でなければならないと。

だからこそ、同じ土俵に立つために、始皇帝は機械の体を捨てた。


「もはや問答によってどちらが正しき在り方を決めること能わず。よって殴る。殴って決める。殴り返すことも特別に許す。そして最後まで立っていた方に、未来の希望を託すものとする!」


これが、中国4000年の歴史における最大の偉人だ。敵対する立場のはずなのに奮い立つような気がするほどだ。

秦は、国家としての幸福が人としての幸福に優先されてしまっていた。それは唯斗にとって、誤りであると正直思える在り方だ。それでもこれほど統治がうまくいっているのは、国家としての幸福を司る人物が始皇帝だったからだ。この人だったからだ。
だからうまくいき、そしてだからこそ、成長はなく剪定された。完成されすぎてしまったのだ。

立香も同じようで、息を飲んでから、その瞳に強い意志を宿した。


「憎む戦いじゃなく、示す戦い…なら、引くわけにはいかない…!」

「マスター…はい、その通りです。私たちはカルデアとしてではなく、私たちの世界の人間として戦います!」


雷帝が異聞帯と戦う意味を突きつけ、スカディがそのどうしようもなさを嘆き、そして始皇帝はこの戦いの本当の意味を示してくれた。

立香は覚悟を決めると、モードレッドと哪吒、マシュの他に一時召喚として、英雄王を召喚した。神代を終わらせた人の王である英雄王は、現れるなりニヤリと笑う。


「ほう?全世界を統一した秦の始皇帝と我、どちらが王の中の王に相応しいか戦うという趣旨だな」

「ちょっと違うけどそんな感じでお願いします!」


立香がそういう戦い方をするなら、唯斗も付き合うべきだろう。


「オジマンディアス、来てくれ」

「王の中の王決定戦の会場とな!!!」


人の王としておよそ人類最大級の功績を成し遂げた神のような王、オジマンディアスを唯斗は召喚した。さらにアーサーも加えて、2騎で挑む。
こちらの布陣を見た始皇帝は面白そうにした。


「ほほう!古代ウルクの王、エジプト新王国のファラオ、ブリテンの騎士王と来たか!どちらの世界に希望を託すか決めるに相応しい!」


勝手に王様決定戦で盛り上がり始めたが、すでに全員、臨戦態勢は整っている。
そして、始皇帝がまず先に仕掛けた。

腕を振り上げると、突然空気が揺れ動き、鎌鼬が発生してこちらに迫ってきた。魔力の塊が空気を文字通り切り裂いているのだ。
すかさずマシュが前に出て盾で受け止めると、アーサーがその背後から跳躍して始皇帝の頭上に躍り出る。
細い橋を走って、始皇帝に斬り掛かろうとしたが、その前に始皇帝の頭上から現れた魔力の球体から衝撃波が放たれ、アーサーは橋から突き落とされる。

咄嗟に唯斗は結界を張って足場とする。アーサーはそれを蹴って再び始皇帝に迫った。

一方、哪吒も始皇帝の背後から槍を突き出そうとしており、始皇帝は橋を俊敏に歩いて二人を避ける。
そこに、英雄王の天の鎖が出現して始皇帝の足を止めた。

すでに始皇帝の頭上にはバビロンの宝物庫が開いており、また、燃え上がるメセケテットも出現していた。
ほぼ同じタイミングで、英雄王の大量の宝具の剣や斧、槍が光となってゲートから現れて始皇帝に向かい、メセケテットの炎熱光線も迫る。天の鎖は神をも足止めするもの、始皇帝は逃れられず、すべて直撃した。

爆発とともに橋は崩れ落ち、阿房宮の東屋も崩落する。さらに、アーサーと哪吒はよろめいた始皇帝を後ろから切りつける。


「ぐ…っ!」

「今だマシュ!」


立香が叫ぶと、接近していたマシュが盾で思い切り殴りかかった。始皇帝はついにそれをもろに喰らって、がくりと地に足をついた。

それに気づき、始皇帝は目を見張る。


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