人智統合真国シン−23
泣き崩れた虞美人に、マシュは気遣わしげにするが、ダ・ヴィンチがすかさず諫める。
「いけない、マシュ。彼女を慰める権利は誰にもない。定命の定めを持つ者には、永遠を生きる者に共感できない」
「…、」
アーサーはそれを聞いて目を伏せる。そう、アーサーも永遠の王となり、エクスカリバーがある限り死ぬことも老いることもない。だがアーサーにはアヴァロンという安寧の地がある。虞美人は真祖、この星の精霊であり、地表にしか彼女の生きられる場所はない。もうそこに、彼女の居場所などないにも関わらず。
項羽を看取った虞美人は、いまだに涙を流しながら、瓦礫を上って橋の上にいるカルデアの方へと上がってくる。
「…カルデア…始皇帝…汎人類史…これで先に続くつもりか……」
「この期に及んでカルデアの道を阻むか?仙女よ」
「もとより人の世の未来など知ったことではない。だが今は、今はもはや、人間のことしか頭にない…貴様らを憎悪し、呪う…復讐することのみが!!」
そう言って、虞美人は自らの霊基を拡散させると、空想樹に吸収させた。神仙は扶桑樹から生まれたもの、それと同化していた空想樹であれば憑依できるという原理らしい。
ダ・ヴィンチは計測された空想樹のデータに目を丸くする。
「な、あれは…もう、どういう仕組みか分からないけど、あの中にあるのは銀河そのものだ!マシュ宝具急いで、ガンマ線が降り注ぐ!」
「は、はい!!」
急いでマシュは再び宝具を展開し、周囲を包み込む。その直後、空想樹は大きく開き、中から銀河らしき星の海が見えた。
アーサーが南極で、落下する空想樹を「世界そのもの」と言ったのは、こういうことだったようだ。
「立香君!浮遊礼装!上空5000メートルだ!」
「ダ・ヴィンチ、今回は俺も行く。一応くれ、でも上空にはアキレウスで行く」
「了解、じゃあ二人分ね」
ダ・ヴィンチは立香が過去2回の空想樹伐採で使用した浮遊礼装を渡した。今回はようやく唯斗も空想樹との戦闘が行える。
「アキレウス!」
「よしきた!戦闘だな!」
「敵は銀河だけどいいか?」
「ヘクトールがいねぇなら問題ねぇよ」
ニヤリとしたアキレウスは戦車を出現させる。すでに立香たちは上空へと飛行を開始していた。
アーサーと乗り込んでから、ふと唯斗はダ・ヴィンチに問いかける。
「なあ、アキレウスとギルガメッシュ、同時に召喚してもエネルギー保つか?」
「今回は霊脈に接続できてるから問題ないよ」
「了解した。ギルガメッシュも来てくれ!」
「ええい人使いが荒いわ貴様!」
再びギルガメッシュを呼び出すと、ギルガメッシュはそう言いながらも、威圧感を放つ空想樹を睨み付け、おとなしく戦車に乗り込む。あの脅威を一瞬で理解したようだ。
そうして、アーサーとギルガメッシュ、唯斗を乗せてアキレウスの戦車は一気に空中へと飛び出した。
咸陽の廃墟があっという間に遠くなり、雲を抜けて、やがて上空5000メートルに到達する。吐いた息が白くなる高度だ。
雲で見えなかったが、途中で立香たちを追い抜いていたらしい。さすがの速さである。
幹の隙間から宇宙空間が見える異様な光景、巨大な空想樹は今まさに世界を支え、そして地表を侵食しようとしている。
空想樹は早くもこちらが敵だと気づいたらしい、その幹の隙間から衝撃波を放ってきた。猛烈な風が戦車を吹き飛ばし、一気に傾いて唯斗はアーサーとギルガメッシュそれぞれに支えられる。
「うぐ…っ!」
「まだ来るぞ!」
アキレウスは冷静に空想樹の出方を観察しており、鋭い声で警告する。
次いで、幹の隙間から大量の光線が放たれた。禍々しい紫色の光線が青空を切り裂き、戦車を狙って迫る。
器用にアキレウスはそれを避けていくが、そのたびに荷台は揺さぶられる。
「熱量が違いすぎる…!速攻で決着つけるしかない、アーサーは浮遊礼装で宝具解放準備!」
「了解!」
アーサーは戦車から飛び出ると、光線を避けながら足下に礼装を起動して浮遊する。
そこに、立香たちもやってきた。マシュが光線を弾き、モードレッドと哪吒がそれぞれ空想樹に斬り掛かる。
唯斗は戦車から立香に呼びかけた。
「立香!一斉に宝具展開してすぐ片付けよう!」
「分かった!」
立香も状況の悪さに同意して、それぞれが指揮下のサーヴァントに宝具解放を指示する。
「ギルガメッシュ、令呪を以て命じる。この中国に真の人の世界を取り戻してくれ!」
「不敬、だが許す!」
ギルガメッシュは左手に石版を持つと、シュメール文字が輝きながら回転し、同時に、空想樹の周囲に次々とゲートが開いた。
空想樹を取り囲むように円を描いたゲートは、魔杖を内側、つまり空想樹に向けて出現させる。
アーサーも拘束を解除している。
「アキレウスも頼む、ギルガメッシュは俺のこと頼んでいいか」
「おう!」
「仕方在るまい」