始まりの惨劇−11


2年以上にわたり共に過ごしたダ・ヴィンチを失った悲しみを処理する間もなく、コンテナはゴミ出しの要領で施設外へと排出された。
さらに、追撃とみられる砲撃によって横倒しになり、万事休すかと思われたが、ホームズは泰然としたままだった。

その理由はすぐに判明する。

なんと、コンテナは偽装であり、実際に一同が乗り込んだのは車輪の付いた巨大な乗り物だったからだ。
一気に外の明かりが入ってきて、中の様子が明らかになる。

そこは運転席のようで、いわゆるデッキにあたる部分だった。主操縦席が2席、様々な計器がところ狭しと並んだ場所で、生き延びたスタッフ8名、マシュ、立香、唯斗、アーサーとホームズ、ゴルドルフが押し込められている。

いや、そこにもう一人現れる。


「やあ!おはよう、こんにちはカルデアの諸君!初めましてと言うべきかな?私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。親しみを込めてダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれて構わないよ?」


***


何がどうなっているのか、それはホームズから端的に説明された。

まずこの車両は、虚数潜航艇シャドウ・ボーダーというものであり、この小さな少女姿になったダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダーを制御するための人工サーヴァントであるという。ダ・ヴィンチのコピーによって造られたAIに近いかもしれないが、ライダーとしてサーヴァントの霊基を持っている。

ダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダーに同期して制御するため、いったん制御スペースの中へと入っていった。棺のようなそこは、まさにサーバーのようなものだろう。

目下シャドウ・ボーダーは、魔術で秘匿された標高6000メートルの雪山を滑落し終わり、次は南極海を目指して広大な雪原を猛スピードで走行している。
立香はここが南極だったことを今始めて知り、驚愕していた。

そしてホームズは、残酷な現実を突きつける。


「そして二十秒前、管制室のすべての通信の停止と動力消失を確認した。カルデアスもその運転を停止。空調は止まり、館内の気温はマイナス100度からさらに低下中。言いづらいことだが、事実は事実として述べよう。我々にはもう、あの場所を取り戻す手段も帰還する方法もない」


ホームズの言葉に立香は絶句し、マシュはふらりと立ち上がる。


「…止めて、止めてください!カルデアに戻ります!戻らせてください!カルデアは崩壊してなんかいません、どんなことになっても、カルデアには皆さんとの思い出が残っています!それに、あそこにはドクターの部屋が、まだ…!」


ハッチに近づくマシュに、フォウが気遣わしげに鳴く。立香も手を伸ばすも、口を開くことができなかった。
事実を述べるのはいい、だが言い方はいくらでもあった。唯斗はホームズに言外に言い方を改めさせようと、「おいホームズ」と声をかける。

そこに、ゴルドルフがマシュの様子に慌てたようにした。


「や、やめんか。今から戻って何になる!」

「ミスター・立香、マシュを止め…いや、その必要はないか。彼女の体は限界だ。霊基との同調もできないまま武装すれば、その負荷はすべて肉体に返ってくる。今の彼女にはハッチをあげる力すらない。怪我をしないよう、椅子に座らせてシートベルトを締めてあげるといい」

「っ、いい加減にしろホームズ。事実だけを述べるなら事実以外の要素はすべて排除しろ、それができないなら気を遣え。英霊やら名探偵やらである以前に、あんたは大人だろ」


ぼろぼろと涙を流すマシュに、唯斗は様々な感情を抑えつけながらホームズを睨み付ける。感情を爆発させても無意味だ。ぐっと拳を握りしめると、まだ治りきっていない左肩に痛みが走った。


「ぅう…ごめん、なさい、ごめんなさい、私がもっとちゃんと戦えていれば…!」


マシュは、デミ・サーヴァントとして戦えなかった自分を責める。優しい言葉は彼女を追い詰めるだけだが、唯斗は咄嗟にアーサーに目をやった。アーサーはすぐに頷いて、マシュに優しく声をかける。


「レディ・キリエライト…いや、マシュ。それを言うなら、私だってサーヴァントとしての力の9割以上を発揮できなかった。君はそれを責めるかい?」

「っ、いえ!現界してくださっているだけでも、心強いです…!」

「君も同じだ。藤丸君もマスターも、君がいてくれるだけで心強いんだ。もちろん私にとってもね。同じことなんだよ、マシュ」

「うう、…っ、!」


アーサー王の言葉だからこそ意味がある。マスターである立香や唯斗の出番ではない。
唯斗としては本当はもっといろいろ言ってやりたかったが、それより先に、窓から青白い光が唐突に差し込んできたことで、事態がさらに進んでいることが分かり、切り替える。


「何の光だ…?」


唯斗は運転席の背後まで行って、フロントガラスから外を見る。そこには、信じられないような光景が広がっていた。

南極の山々の稜線の向こうに、青白く輝く流星のようなものが、不自然にまっすぐ降下していく。あまりの大きさに近く見えているが、あれは恐らく、何千キロも離れた場所のものだろう。


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