節目と自覚−1
中国異聞帯の攻略を終え、ノウム・カルデアに帰還したのち、3か月ほどの猶予期間が与えられることになった。
これまで極めてタイトなスケジュールで3つの異聞帯を巡ってきたため、逆に不安になってしまう。
そこまで時間を空けることになったのは、まず目標が変更になったことがある。
従来はすぐ大西洋異聞帯を目指す予定でいたが、広大な海を今のままでは超えられないということが判明し、それに対応するべく、インド異聞帯の探索が次の目標となった。
ただ、中国異聞帯で始皇帝にこねくり回されたボーダーのオーバーホールだけでなく、スタッフの休養やリソースの確保、各種武器・備品の整備など課題は山積しており、3か月という時間が設定された。
さらに、その期間の長さは実際にはより短いとシオンは説明した。
彷徨海は時空のはざまにあるためそもそも時間が外の世界と隔絶しており、人理修復中のカルデアのように、ここでの経年と地表の経年には大きな差がある。
3か月というのは彷徨海での体感時間であり、実際の世界時計ではずっと短い期間で収まるだろうとのことだった。
この3か月で戦力増強にあたるべく、立香はまだ再契約できていなかったサーヴァントとの再契約のほか、新規サーヴァントの召喚にも挑戦。
結果、縁をつないだために、アナスタシア、アヴィケブロン、ナポレオン、シグルド、ブリュンヒルデ、ワルキューレ、蘭陵王といった汎人類史の者であり、異聞帯で出会った者たちがやってきただけでなく、異聞帯の存在であるスカサハ=スカディ、始皇帝といった者たちまで召喚された。
そして驚くべきことに、虞美人と項羽までやってきたのだ。
信頼と実績の縁であり、なんだか立香一人で縁結びの神社でもやれそうだ。
項羽はもちろん異聞帯の記憶こそないものの、虞美人はもともと汎人類史の存在だ、二人は早速仲睦まじい姿を見せていた。
とはいえ、虞美人はすべての記憶を残しているため、立香を含むカルデアのメンバーには当たりがきつい。召喚したときも、第一声が「いったいどういう神経してるの!?」だったらしい。
そんな虞美人とは、彼女が召喚され、項羽と再会を果たしたその日に、唯斗も出くわした。それもばったりと廊下で。
「あ、」
「うわ」
アーサーと歩いていた唯斗は、思わずそんな声を出してしまった。当然、虞美人はきつい眦をさらにきつくする。
「随分なご挨拶ね?どういう意味での『うわ』なのか聞かせてもらえる?返答次第では殺すわ」
「本当に来たのか、っていう意味だけど」
「よし、殺すわ」
虞美人はすぐに戦闘態勢に入ろうとしたが、アーサーが前に出る。
「そこまでにしてもらおう」
「フン、騎士王が随分とまぁ甲斐甲斐しいのね」
虞美人はさすがにアーサー相手に正面からやりあうつもりはないようで、殺気を鎮める。そこで唯斗は、意趣返しも兼ねて口を開く。
「あ、項羽」
「えっ、項羽様?!」
「間違えた、赤兎馬だった」
「呂布ですが」
「しっちゃかめっちゃかじゃない!!やっぱり殺す!!」
いろいろと情報が入り乱れたが、項羽の名を出しただけでパッと顔を輝かせる様は、たった一節しか史実に登場しない人物でありながら、これほど多くの後世の人に親しまれたあの虞美人が、ここでなら幸せな時間を過ごしてくれそうだという期待を持てた。
一般通過赤兎馬はすぐに興味をなくして廊下を歩いて行ったが、入れ違いに今度は本物の項羽がやってくる。
「おや、項羽殿」
今度はアーサーが声をかけたが、虞美人はこちらを睨みつけるだけだ。
「二度も同じ手に乗ると思われるとは、私を愚弄するにも程があるわ。だいたいあんた、前のカルデアのときと別人じゃない!私のこと言えないでしょ!?」
「如何した、虞よ」
「項羽様!」